うっそお!?
どうしてえ!?
なんでなんで、山脇が岡林颯真君(おかばやし・そうまくん)と知り合いなの!!??
という女子たちのざわめきが、悲鳴に混じって聞こえて来る。

おいおい!
聞いたか!
転入生の岡林(おかばやし)が、山脇と知り合いらしいぞ!
という男子たちの声も。

どよめき、ざわざわする教室の中で、

私、山脇凛(やまわき・りん)と彼、岡林颯真君(おかばやし・そうま)君は、
まっすぐに立ちながら見つめ合っていた。

あれだけ待ち焦がれた初恋の相手。

べたで少女趣味って言われそうだけど、改めて心の中で言おう。

岡林颯真君(おかばやし・そうま)君は、
……幼い頃、迷子になった私を助けてくれた、小さな白馬の王子様……

とまで言うのは、凄く大げさで乙女チックかもしれないけど。

目の前に立っている颯真君が、成長した、その人だと知った時、
私の世界はがらりと変わった。

10年前から持ち続けた私の夢がようやく叶う。
きっぱりとけじめがつけられるから。

私の持ち続けた夢……
あの時、言えなかったひと言が……助けてくれたお礼が言える。

嬉しい!! 嬉しくてたまらない!!

「お、お、お、岡林颯真(おかばやし・そうま)君! た、た、た、助けてくれて……あ、あ、あ、ありがとう!!」

うわ!
恥ずかしい!
何とかお礼を言えたけど、思いっきり嚙んじゃったよ。

颯真(そうま)君、こんな私を、どう思っているだろうか?

何だか、すっごく恥ずかしい。

顔が、かあっと熱い。
赤くなるのが、見えないのに、はっきりと分かる。

対して、颯真君はにかっと笑い、

「おう! 任せろ! お安い御用だ。また何かあったら、助けてやるよ!」

見た目のクールさとは正反対。
そんなギャップ萌えもあり……
颯真君の温かく優しい言葉に、私の胸は「きゅん!」
いわゆる『胸キュン』となってしまった。

自然と、目には喜びの涙がいっぱいにあふれた。

私の初恋の相手、岡林颯真(おかばやし・そうま)君との運命の再会。

だが……
10年ぶり、感動の『颯真君との再会』も、
担任の里谷先生の、「ぱんぱんぱ~ん!」と手を叩く音、
そして「静かに!」という大声でとりあえず、
「お開き」となってしまった。

そんな波乱のホームルームが終わって、
『休み時間』となり、私と颯真君の席の周囲には人だかりが出来た。

……まあ、多分そうなるとは思ったけれど。

クラスメート達は全員、
私と転入生の颯真君が、なぜ知り合いなのか、
絶対に知りたいのだから!

でも……
人だかりが多いのは断然、颯真君の方である。
まあ、当然だろうし、仕方がない。

クラスのほとんどの女子達が、颯真君へ身を乗り出すくらいに、
ぐいぐいと詰め寄っていた。

その光景を見て、苦笑した颯真君。
すぐに優しい笑顔を私へ向け、

「みんな気になっているみたいだから、事情を……君との出会いを話していいかい? (りん)ちゃん」

うわ!
10年ぶりに会ったのに、いきなりフレンドリーだ。
下の名前で、それも『ちゃん付け』で呼ばれた!

初恋の相手だからかもしれない。

けど、心がときめいてしまった。

思いっきりクールな颯真君から、優しくフレンドリーに温かくされるのが、
つまり『ギャップ萌え』が、『私の弱点』みたい……

「え、ええ……か、構わないわ」

ただただ、私はそう、言うしかなかった。

私の初恋……は、さすがに内緒だけど、
ふたりが出会った経緯、
10年前のほほえましい『迷子事件』が颯真君から語られた。

クラスメート達、特に颯真君に関心アリアリの女子達は……
『事件』を聞き、いくつもの反応に分かれた。

単純に、「ほほえましい」「運命的な再会で素敵」
と、思ってくれたロマンティック派。

ジェラシーありありの、
「そんな昔の事、無視、無視! 子供の頃の話でしょ? 今は関係ないわ!」
と、のたまうライバル宣言派。

そのライバル宣言派達は、嫉妬に燃え、凄い目で私をにらんでいた。
女子の怨念って、凄すぎる。
さすがに身体が震える。
心も折れそうになる。

ここで早速、颯真君が約束を守ってくれた。
不穏な空気を読み、手をさっと挙げたのだ。

「念の為、言っておくけど……俺はこのクラスの新参者。皆と仲良くしたい」

ひどく真剣な颯真君の口調。
クラスメート達は、全員黙って聞いている。

「………………………………」

「だが、凛ちゃんとの思い出は特別であり、凄く大事だ。それでもしも、何やかんや文句を言う奴がいたら、俺は絶対に言い返す。断固抗議するよ」

「………………………………」

「もしも、ある事無い事、陰口を言ったり、凛ちゃんへ因縁をつけたり、無視したり、どうこうしたら、俺は絶対黙っていないし、そいつを大嫌いになるだろう」

すると、颯真君の話を黙って聞いていたクラスメートたちの中で、ひとりの女子が、

「ねえ岡林君、もしかしてそれって、山脇へ告ったって事? 彼女宣言なの?」

と、いきなり直球を投げ込んだ。
対して、颯真君は、

「いやいや、凛ちゃんへ告るとか、彼女宣言とか、違うって!」

と、大きな声で否定した。

あううっ!

ショック!
いえ、大ショック!!
心が折れそうになる!!

怯えた『わんこ』のように小さく唸る私。

運命的とも言える、衝撃の再会をして、
私と颯真君は、小説のカップルみたいに相思相愛じゃないの?と思ってしまった。

同級生たちは、颯真君と私を交互に見た。

女子たちは、皆、ホッとしていた。

颯真君は更に話を続ける。

「俺さ、親の転勤で、久々にこの街へ戻って来て、もしかしたら凛ちゃんに会えるかと思っていたら、願いが叶ったんだ」

「願いが?」

「ああ、でもしょせんは子供の頃の話だ。凄く懐かしいし、凛ちゃんは大人になって、更に可愛くなっていたけど、それはそれだろ」

すると今度は違う女子が、

「それはそれって……じゃあ、岡林君はどういう女子がタイプなの?」

おお、またも『ど』が付く直球!

対して、颯真君は

「う~ん、そうだなあ。俺が好きな女子のタイプは、優しくて、気配りが出来て、夢を持って生きている子……だな」

優しくて、気配りが出来て、夢を持って生きている子……
それが颯真君の好きな女子のタイプ。

……騒ぎは収まり、場はなごやかになった。
そんな中、私は『ある決意』をしていたのである。