お夕飯の後、行ったお母さんとふたりきりの『作戦会議』が終わった。

お母さんは娘の私の事を、
置かれている状況をしっかりと理解した上で、
凄く丁寧に深く深く『作戦』を考えてくれた。

私はひとりっ子で姉や妹は居ないけれど、
お母さんって、困った時に頼れるお姉さんみたいな感じだ。

本当に大感謝!

忘れないように、私は学校の授業を受ける時みたいに、
ノートに、お母さんの作戦、言葉をいろいろ書き写していた。

そしてお母さんに確認を取り、自分の感想、意見も伝えて、
最終形にした。

そこまでする?
と、ドン引きする人が居るかもしれない。

でも、先ほど後押ししてくれた遥のポリシー、

「自分が置かれた状況下で、可能な範囲内において、ベストを尽くせば良い!」

この言葉を大事にしたいと思う。

そう、私は自分の初恋を成就する為、ベストを尽くさなくてはならない。

お母さん、遥は応援してくれ、颯真君も私を助け、支えてくれるだろう。

でも私自身が、頑張らないといけない!
そんな気がした。

そして、作戦の遂行は、
学校のテスト以上に丁寧で慎重にしなければならないと、
私は決めたのだ。

作戦はいろいろな人の協力が必要。
周囲への気配りも凄く必要。

この作戦は6歳の時みたいに、絶対、失敗出来ないから。

私は「失敗しない!」と言い切れる女子が凄くうらやましかった。

でも今回、私も失敗しない!

そう自分へ言い切った。

さあ、準備完了。

私は数回、大きく深呼吸し、スマホの液晶で、(はるか)の電話番号を押した。

ぷるるるるるる……がちゃ!

呼び出し音1回で遥が出た。

お母さんの言葉がリフレインする。

(りん)、遥ちゃんは貴女の一番大事な親友よ。だから、彼女に負担をかけないよう気づかってあげて、心から誠意をもって相談してね」

……了解!
私はひたすらお願いする立場。
遥の彼氏、海斗君も巻き込むから、誠意をもって相談。

でも何かあったら、私だって必ず遥を支えるつもり!
改めてそう思う!

スマホから、遥の声が聞こえて来る。

「は~い! 凛! 大丈夫? 元気ぃ? 大丈夫ぅ?」

ひときわ明るい遥の声。
今日の『事件』で、私を気遣(きづか)ってくれていると分かる。

私はまずお礼。
それと、遥がしばし通話可能か、確認する。

「ありがとう! 遥! 連絡と相談する事があるんだ。少し長くなるけれど、今、話しても大丈夫?」

「大丈夫! 大丈夫! OKだよぉ!」

「内緒話が結構あるけれど、遥の周りに人は居ない?」

「問題ナッシング、ノープロブレム! 私の部屋にひとりきりのぼっちだよぉ」

「あはは、ハイテンションだね、遥」

「うん! 私、絶好調!」

「あはは、という事で、まずは遥へ報告」

私は軽く息を吐く。

いきなり、颯真君との交際決定は告げない。

でも、長い前振りは不要だ。

「……私ね、遥と別れてから、全くの偶然に、家の近くの公園で、颯真君と逢った」

と、単刀直入に告げたら……一瞬の間。

さすがに遥は驚く。

「え~!? びっくり! 何それぇ!?」

朗報をすぐ、遥へ伝えたい!

でも、待て! 私!

順を追って話した方が良い!

冷静に、冷静に……

はやる心を押さえ、私は順を追って話して行く。

「それで……ふたりでいろいろと話したんだ……颯真君が学校を早退したの、体調不良じゃなかったの」

「わおっ! 体調不良じゃないって、それって素直に喜んでいいのか、どうなのか、全然分からないよ」

「うん、遥……実は……」

迷ったけれど、遥には颯真君の『事情』を話す事にした。
少しのろけが入っちゃうけれど……

という事で………………遥に話した。

10年ぶりに帰って来た故郷・この街に……
颯真君の持つ幼き頃の、思い出の場所が、
ほとんどなくなっていた事を……

そして唯一、変わっていなかったのが、
6歳の時出会った『泣き虫』の私・山脇凛である事も。

「再開発で変わってしまったこの街に……大切にしていた颯真君の思い出がなくなって……落ち込んで、いらいらしていた時に、6歳の時に逢った私に、再び逢えて嬉しかったって……言ってた」

「おお、そっかあ! じゃあ故郷ロスで、喪失感に陥った颯真君の心を、凜が(いや)してあげたんだね」

「うん、何か、そういう事みたい」

「そういう事みたいじゃなく、間違いなくそうだって! で、その先は、どうなったの?」

「うん、相原さんが強引に、私を誘おうとするのを、颯真君は、何とか止めようとして、間に入ってくれたんだって」

「うん! それは分かるよ。以前、約束したのを守ってくれたんだよね ほら、……おう! 任せろ! お安い御用だ。また何かあったら、助けてやるよ! ……ってさ」

遥……私の為に、颯真君の約束も(おぼ)えていてくれた。
ありがとう!

「うん、約束を守って、颯真君は、私を助けてくれた。でも……」

「でも?」

「後でね。凄く落ち込んだんだって」

「え? 凜を助けたのに、凄く落ち込んだの?」

「うん、私に対して余計な事をしたんじゃないかって、後悔したんだって……」

「え? 余計な事をして、後悔って、何それ?」

「止めに入って、私が相原さんと交際するのを邪魔しちゃったって……」

「うわ! 颯真君……えらい勘違い」

「それでね、そういう情けない自分が本当に嫌になって、颯真君、学校にそのまま居たくなくて、嘘ついて早退したって」

「わお、そうだったんだ……里谷先生が言ってた通りだったね。颯真君のメンタル面が原因だって……新しい環境に慣れないとかは、大はずれだったけど……」

「うん、そうだった」

「で、そう言われてさ、なんて言葉を返したの、凛は」

「ええっと……そんな事ないよって、言い返して……」

「そんな事ないよっって、言い返して? まあ当然だよね」

うう……恥ずかしいけど、遥には本当の事を言おう。
そう、決めたから。

「う、うん。あの、そして……私、颯真君の前で、大泣きしちゃった」

「え~!? 凜が!? 颯真君の前で、大泣きぃ!?」

「う、うん……あの、例の約束だけじゃなく、私を相原さんに取られるのが絶対に嫌で、止めに入ったって言われたから……」

「え? 相原さんに取られるのが絶対に嫌って!? うっわあ! そ、それって! 凛が! そ、颯真君に(こく)られたんだあ!」

「う、うん! そういう事になる……だから、お邪魔虫なんて絶対に違う! って言って、嬉しくて胸がいっぱいになって、……思わず泣いちゃった」

「嬉し泣きか! 分かるよ! それで、凛! その後、どうなったの!?」

「う、うん! 私から好きって言って……返事は……OKだった。颯真君、俺も好きだって言ってくれた!」

私が何とか報告をしたら、遥は大きな声で、

「凜! おめでとう!」

と、心のこもったお祝いの言葉を告げてくれたのである。