お母さんとふたり、
とても美味しく、お夕飯を食べた後……

いよいよ居間で、作戦会議だ。

私が単刀直入に報告したように、お母さんもストレートな物言いをする。

「凛、お母さんが考えた、作戦自体は、シンプルよ」

「え? 作戦自体は、シンプル? ……なの?」

「ええ、シンプル。ストーリーはもう出来ているから、後は既成事実を作るのよ。遥ちゃんと海斗君に協力して貰ってね!」

「ストーリーはもう出来ているから、後は既成事実を作る? 遥と海斗君に協力して貰うの?」

「ええ、凛と颯真君のふたりが、お互いにどうして出会って、ひかれあい、好きになったのか? それとこれから、お互いの事を知り、距離を縮めて行こうというストーリーは、既に出来ているでしょ?」

「そ、それは、確かに……さっき、お母さんに話した通りだよ」

「身内って、ひいきめもあるけれど……さっきの説明でお母さんは納得したし、10年ぶりに初恋の相手に出会って、気持ちを確かめながら、交際するって、素敵だって思ったもの!」

「そうなんだ」

「ええ、凛も、颯真君とのお付き合いがオープンになって、どうして交際しているのか、クラスメートを始め、周囲から尋ねられても、堂々と説明は出来るでしょ?」

「まあ、ね……」

「だから、後は既成事実を作るだけ……作戦はズバリ、ダブルデートよ!」

お母さんの提案はダブルデート!?
どういう事?

私は身を乗り出す。

「ダ、ダブルデート!?」

あ!
でも、ここでピンと来た。

お母さんの話を思い出したからだ。

「遥と海斗君に協力……あ、もしかしてっ!」

「ピンポーン! 大当たりぃ! 凛、颯真君カップルと、遥ちゃん、海斗君カップル、都合4人で何回か、デートするのよ!」 

「な、成る程!」

「凛と颯真君はコミュニケーションが取れて、より仲良くなり、距離が縮められるのは勿論、親友の遥ちゃん、遥ちゃんの彼氏の海斗君も入れて、全員一緒に仲良くなれるとメリットは多いわ」

「わあ! お母さん、ナイスアイディア! それ、本当に良いかも!」

私はお母さんの説明を聞き、喜んでしまった。

「でしょ? ダブルデートならば、第三者が(はた)から見ても、男女4人、友達同士で遊んでいるって見え方になると思うよ」

「そうか! ……友達同士の4人で遊んでいるなら、もしも目撃したクラスメート達から、突っ込まれても、自然というか、私はしょっちゅう、遥、海斗君と一緒に居るから、そこへ単純に、颯真君が加わっているって事よね?」

「ええ、そうよ、凜! それで何回かダブルデートした結果、颯真君と、自然にふたりで付き合う事になったっていう、既成事実というか、メイキングストーリーが出来るじゃない」

「わお! バッチリ!」

「でも、凛」

「なあに、でもって、お母さん」

「クリアしなければならない課題というか、問題がふたつあるの。ここからが特に大事な話、良く聞いてね」

「え? クリアしなければならない課題というか、問題がふたつ? 何それ?」

大事な話という言葉通りに、お母さんの顔つきが、ひどく真剣になった。

そして、問題って……何だろう?

私は、居住まいを正し、お母さんの話に集中する。

「まずひとつ。遥ちゃん、海斗君に、作戦参加の了解を貰うのは、凛が誠意をもって、ふたりにお願いする事」

成る程!
でも、これは問題ない。

「うん! それはもう当然だよね! 私、ひたすらお願いするわ! 遥と海斗君に! 協力してくださいって!」

「ええ、凜が心を込めてお願いして! でもこれは多分、クリア出来ると私も思う。問題は残りのひとつ」

お母さんは、意味深に言う。
私はとても気になった。

「問題は……残りのもうひとつの方?」

「……ええ、凛、それはね、颯真君が覚悟をもって、取り巻きのクラス女子達と距離を置く事」

「え? 颯真君が覚悟をもって、取り巻きのクラス女子たちと距離を置く?」

「ええ、さすがに『凛と付き合うから!』 といきなりストレートには言えないから……まず頃合いを見て、『俺には好きな人が居る』って、クラス女子たちに告げて貰うのよ」

「それって……」

私は、クラス女子への対策について、
全くといって良いほど考えが及ばず、言葉が出なかった。

何とか、颯真君に協力したい、支えたいと思ったけれど……

つらつら考える私をよそに、お母さんの話は続く。

「ええ、凛と付き合っているのに、大勢のクラス女子たちに休み時間にはいっつも囲まれるとか、学食には一緒にぞろぞろって、いつまでもそんな状況は宜しくないでしょ? だから、颯真君自身から、『実は俺には好きな人が居る』から、って言って貰うの」

「………………」

「もしも、その好きな人は誰? って取り巻きのクラス女子たちから聞かれても、それは絶対に言えないと、颯真君には徹底的に突っぱねて貰うの。なぜなら、好きな相手の気持ちが分からないって……これから、お互いの事を知って行くって、ね」

「………………」

「だから、悪いけれど、君たちとは普通のクラスメートとして、接したい。颯真君から、クラス女子たちへきっぱりと言って貰うのよ。……それで、たいていの女子は諦めるでしょうから」

「………………」

「そもそも、凛と颯真君の出会いのエピソードは、クラスの殆どが知ってるんでしょ?」

「……うん、ほぼ全員、知っていると思う」

「そして、今日の相原さんの『事件』は皆が見ているじゃない。目の当たりにしている。だから、勘の鋭い子、空気が読める子は、颯真君が好きなのは、凛だって、すぐに気づく。セッティングは既に完了しているわ」

「………………」

「それに颯真君、クラスのみんなに言ったんでしょ? 俺と凛の想い出をとやかく言うなって」

「うん……言った」

「だったら、ストーリーは自然につながる。ダブルデートして、更にはふたりきりでデート。いろいろ話して、お互いの気持ちを確かめ、告白し合って交際が始まった事にするの。点が線になって、線が絵になるわ」

凄い!
お母さん、いろいろ考えてくれていたんだ。
……私の為に、ここまで……

「……お母さんの作戦は良く分かった。いろいろ考えてくれて、本当にありがとう!」

「どういたしまして! 作戦の話は遥ちゃんへ全て伝えて構わない。そうお母さんは思う」

「うん、遥には全部話すわ」

「それと遥ちゃんの彼氏である海斗君への相談やお願いは基本的に、遥ちゃん経由で行う事。凜が直接、海斗君へ話したり頼んでは駄目よ。いろいろと誤解されるもとになるから」

「わ、分かった」

「凛、遥ちゃんは貴女の一番大事な親友よ。だから、彼女に負担をかけないよう気づかってあげて、心から誠意をもって相談してね」

お母さんはそう言うと、にっこり笑ったのである。