当然だけど、その後……両親と一緒にいろいろと探したが、
私を助けてくれた男の子とは、会う事はかなわなかった。

特に迷子事件?のあったショッピングモールに行った時は、
周囲をきょろきょろ見るようになったが、
結局、これまで男の子に再び会う事はなかったのだ。

そして10年という、長い月日が流れた。

改めて思う。

生まれてから16年間、彼氏が居ないのは、私が地味なだけではなく、
とても奥手で、恋愛に積極的ではないのかもしれないと。

そして、助けてくれた、あの男の子に再び会うまではと淡い期待を持ち続け、
他の男の子には、全く目が向かなかったのだ。

元々、男子が苦手だったし、手を握ったのは初恋のあの子だけ。

違うクラスに居る幼なじみで親友の田之上遥(たのうえ・はるか)からも、

「あのさ、いつまで初恋を引きずっているのよ。(りん)はもう少し、恋愛に積極的になった方が良いよお!」

と呆れられる始末。

でも、いいや。
初恋はもう経験しているし。

だから私だって、恋は出来る女子だもの。

もしもあの男の子と再会出来なくとも、
いつかは、彼に匹敵する素敵な相手と巡り合うはず……
と、おたくの私は、ラノベやアニメ世界の恋愛ストーリーに自分を重ね、
楽しんでいた。

え?
貴女は、すっごく、いたい子だって?

ええ、それは充分に自覚してますって。

そんなある日。

「ウチのクラスへ転入生が来るらしい」という情報を誰かが仕入れた。

わあ、きゃあと教室が盛り上がる中、
担任の里谷先生《女性教師》が、ホームルームの時間に、
長身な男子の転入生を伴って、教室に現れた。

「おはようございます! 今日は、皆さんに転入生を紹介しまあす!」

同時に女子たちが「きゃ~っ!」と絶叫。
逆に男子たちは「なんだ、男かあ」とつまんなそうにそっぽを向いた。

私が、さりげなく、転入生を見たら、
彼は背が高くて180㎝近く、すらっとして足が長い。

髪は短めで、顔が小さく、鼻筋は通っている。
きりっとクールな雰囲気で一応カッコいいとは思った。

何か、スポーツでもやっていたのかなって感じ。
人気が出て、モテそうなタイプかも……

そこまで観察して、私は視線を外した。

「じゃあ、岡林君、皆に自己紹介してくれるかな?」

里谷先生に促され、転入生は声を張り上げる。

「はいっ! 岡林颯真(おかばやし・そうま)です。A市から引っ越して来ました。宜しくお願いします」

ふうん……岡林颯真(おかばやし・そうま)君かあ。

あらら、颯真君、顔立ちだけではなく、アニメの声優みたいに声も凄く綺麗だ。
これは絶対に、女子に人気が出るなあ。

案の定、女子たちの「きゃあ」「きゃあ」がますます大きくなった。

一方、男子達は面白くないみたい。

けっ、とか、ちっ、とかいう声と舌打ちが聞こえて来る。

そんなクラスの雰囲気を華麗にスルーし、里谷先生は着席している私たちを一瞥した。

「ええっと、岡林颯真君の席はっと、どこがいいかしら? ……あら、山脇さんの隣が空いてるわ」

ええ?
おいおい、里谷先生、私の隣の席を指名するの!?

もしや? と思っていたけど……私の隣席は、偶然空いていた。

先月、転校していった男子が座っていた席なのだ。

ちなみに転校していった男子は、当然、私とは単なるクラスメート。
深い間柄ではない。

颯真君が、里谷先生へ尋ねる。
気のせいか、ちょっとどぎまぎしている感じだ。

「えええ!? せ、先生!! あ、あの!! や、山脇さんって誰ですか!?」

「ほら、あの子が山脇凜さんよ。隣の席が空いているでしょ?」

里谷先生が私を指さし、隣席が空いている事も告げた。

「おおっ!! 彼女が山脇……凜さんかあ!! わっかりました!!」

颯真君、何故かびっくりした表情をして、私をフルネームで言い、

「いやあ、本当に驚いたよ。こんな事もあるんだなあ!!」

などと意味不明の事を言っている。
彼は、何に驚いているのだろう?
全く、意味が分からない。

一方、岡林颯真君が、私の隣に座ると聞き、女子たちが、

「ええ~っ!? 山脇の隣ぃ!? 何でえ?」

と不満の大きな声を上げた。

もお!
しょ~がないじゃないの。

颯真君をひとりのぼっちで座らせるわけにはいかないじゃない。
結局、クラスメートの『誰か』の隣に座る事になるのよ。

そもそも!
私が颯真君の隣を望んだわけじゃない!
単なる偶然なんだもの。

そんな事をつらつらと考えていたら、颯真(そうま)君はすっすっと歩いて来た。

そして私の目の前に立ち、声をかけて来る。

「ええっと、山脇さん」

颯真君から声をかけられた私は一応、礼儀上、起立。

男子が苦手といっても、私はさすがにもう高1。
あいさつぐらいは出来るのだ。

「はい、初めまして、山脇凛(やまわき・りん)です。宜しくお願いします」

私が名乗ると、颯真君はじ~っと私を見つめた。

改めて見ても、やはり颯真君はイケメン。

鼻筋が通っていて、目は切れ長で瞳はキレイなブラウン。
唇が薄い……

物腰が落ち着いていて、遠くから見た第一印象同様、クールな男子って感じ。

その颯真君がいきなり爆弾発言!

「いやいや、多分、初めましてじゃないよ」

「え!?」

「多分、初めましてじゃないよ」って、どういう意味なの!?

目を真ん丸にして、驚く私をじいっと見つめ、

「成る程。君が山脇凛さんなのかあ。良~く(おぼ)えてるよ、俺!」

「え!? えええええ!!?? よ、良~く、お、憶えてるって!? な、何!?」

びっくりして発した私の大声に釣られ、教室はざわめき始める。

「ああ、そうさ、もう一度言うよ。俺と君。初めまして、じゃない」

「私と貴方が、初めまして、じゃない? 何ですか、それ?」

「実は俺さ、凛さんとは、以前に()った事があるんだよ」

?????
こ、この人と、以前に逢った事がある???

いやいや、全然、心当たりがないですけど……

「ええっ、貴方が!? 以前に、わ、私と()った事がある!? まさかあ!?」 

「いや、本当さ。ただ万が一間違っていたらごめん。……(おぼ)えているかな?」

「えええ? 憶えているって、何を?」

声を振り絞って問いただす私へ、颯真君はいきなり声色を変え、

「ぼくもさ、迷子になった事あるんだよ」

「え!?」

「その時、ここのお姉さんに助けて貰った」

「………………………………………」

「だからさ、お願いすれば絶対に大丈夫だよ! すぐにお父さんとお母さんが来るよ!」

と、完全に子供になりきり、言い放った。

「な!? ええええええ~~っっ!!??」

とても驚いた!!

否、とても驚いたなんてものじゃない!!!

そ、そのセリフ!?
当然!! 私だって(おぼ)えている!!

何という!!!
何という、衝撃の展開!!!

いきなり!!!
突然!!!
大サプライズ!!!

ショッピングモールで私を助けてくれた、
初恋の相手との運命的な『再会』の瞬間だった。

転入生の岡林颯真君は……
あの時、名前を告げず、かっこよく去った男の子――
つまり!! 私の初恋の相手だったのだ!!

私はとても驚き、ホームルームの最中なのに、つい大声をあげてしまう。

「あ、あ、あ、あの時の!!!」

「おう! ショッピングモールの事を(おぼ)えていたかい? 10年前のあの時、君は係りのお姉さんへ名前を言っただろ?」

「え、ええ!! い、言ったわ!!」

「君の手をひいて、係りのお姉さんの所へ連れて行ったガキンチョが俺だよ。迷子になった山脇凛さん!」

颯真君はそう言うと、いたずらっぽく、ウインクしたのである。