職員室で里谷先生を捕まえ、やりとりしたものの……
颯真(そうま)君の事は、ほんの少ししか聞けなかった。

職寝室を後にし、廊下を歩く私と遥。

また、同じ事を繰り返してしまった……
悔やんでも悔やみきれない。
情けない……
10年前の時のように、私は颯真君へお礼がすぐに言えなかった……

颯真君と連絡を取る手段はないし、
こうなると、明日まで待つしかないのかあ。
もしかしたら、体調不良で明日も休みかもしれないし。
そうなったら、ず~っともんもんとした気持ちで過ごすんだなあ……

どよよよ~んとする私。

自己嫌悪に加え、私って「本当に持ってない」という、運の無さを痛感する。

落ち込み感が、半端ない。

そんな私へ、遥はとびきりの笑顔を向けて来る。

「凛! お疲れ! じゃあ、帰ろう! 凛と一緒に先に帰るって、海斗へメールしておくから!」

そう言われて、私はハッとした。
つい自分の事で精一杯で、余裕がなかった。

「付き合ってくれた遥に、きちんとお礼を言わなくては」と、気付いたのだ。
遥はまるで自分の事のように、一生懸命、一緒に颯真君を捜してくれたんだもの。

颯真君もそうだけど、遥にも大感謝。
彼女には、いっつも助けて貰いっぱなしだから。

私だって、何かあれば、遥を支えてあげたいと思う。
だけど、彼女から相談された事はほとんどない。

彼氏海斗君との恋愛だって、好きな人が出来た、告白した、付き合う事になったと、
都合たった3回、報告をして来たくらいだ。

結局、遥は自分で決め、自分で行動し、しっかりと恋を実らせた。

私も、そんな遥の決断力、行動力を見習いたい。
それも自分磨きの一環だろう。

よし!
しっかりと、遥へお礼を言おう。

「ねえ遥……今日は本当にありがとう。いろいろと……感謝してる」

私のお礼の言葉を聞いて、遥はにっこり、満面の笑みを浮かべる。

「いえいえ! どういたしまして! 全然お安い御用だよ、私は凛の親友なんだもの!」

「う、うん! 私も遥の親友だよ! 何かあったら、絶対に言ってね! 今度は私が遥を助けるから!」

「了解! ありがと! その時は凜に頼っちゃうから、よろしくう!」

「うん、頼りない私に相談するとか、そんな事、本当はない方が良いんだけどね」

「あはははは! 悩み事とか、悪い事なんて、本当はない方が良いよね! 毎日毎日! 明るく、過ごすのが一番だもの!」

けらけら笑う遥。
落ち込んだ私を、あくまでも自然に元気づけてくれるのが、本当に嬉しい。

遥は更に言う。

「でもさ! 今日、凛は、やるべき事をちゃんとやったじゃない! しっかり行動したじゃない! だからOK! OK! ノープロブレム、問題なしっ!」

本当に遥はポジティブだと思う。

彼女のポリシーとは、
「自分が置かれた状況下で、可能な範囲内において、ベストを尽くせば良い!」
というもの。

反省はするけれど、必要以上に過去を振り返らない。
思い切りが良く、気持ちの切り換えが早い。

これも、本当に素敵だと思うし、私は見習いたい。

そして、遥はポジティブ思考、常に前向きだ。
これも見習いたい!

私にとって、遥は理想の女子かもしれない……

「ものは考えようだよ、凜! 今日は、とっても良い日じゃない! ず~っと停滞していた初恋も進展したし!」

えええ!?
私の初恋が進展!?

思わず遥の発言をなぞり、聞き直してしまう。

「ものは考えよう? とっても良い日? 進展したの? 私の初恋が?」

「だってさ、凜! 思い出してごらんよ! 颯真君、凛の事、絶対気にしていたんだよ。あのシーンで止めに入って、助けてくれる人なんて、そうは居ないよ!」

「た、確かに……」

「颯真君、前に聞いた凛との約束……しっかり守ってくれたんだよ! 義理堅いし、誠実だよ! 有言実行って、ああいう事だよ! すっごく素敵な人じゃない!」

そう、颯真君への初恋、その後悔、そして再会、
全ての経緯を知る遥には言っていた。

「お、岡林颯真(おかばやし・そうま)君、た、助けてくれて……ありがとう!」

と、10年前のお礼を言い、

「おう! 任せろ! お安い御用だ。また何かあったら、助けてやるよ!」

と約束して貰った事を……

つらつら考える私に、遥は良きアドバイスをくれる。

「明日、颯真君に会ったらさ。凛が改めてお礼を言って、その時、自然に連絡先も聞けると思うんだ。それでじっくり話せば、お互いの距離も縮まると思うよ!」

そうだ!
遥の言う通りだ!

「ありがとう、遥! そうする! 本当に本当にありがとう!!」

「あはは、どういたしまして! 今日は凛のありがとう、い~っぱい、貰っちゃったね!」

「うん!」

という事で、私と遥は下校。

途中まで一緒に歩き、いろいろな話に花を咲かせた。

そして、遥と途中で別れ、自宅へと向かう私に、
一生忘れられない『衝撃の事件』が起きたのである。