遥と学校中を駆け巡った『颯真(そうま)君捜索』が空振りに終わり、
更に彼が体調不良で早退したとも聞いて、午後の授業は全く身が入らなかった。

私の隣の席は、当然、誰も居ない……

気もそぞろで、全く集中出来ず、颯真君を心配する気持ちばかりが高まって来る。

あの元気な颯真君が早退したって、よほど具合が悪いのだろうか?
凄く心配だ……

そんなこんなで……
いつもより、とんでもなく長く感じた、授業がようやく終わった。

本日の最後の授業は、担任の里谷先生が行った。

やはり颯真君の事が気になる。
彼は早退する際、里谷先生に理由を告げ、OKを貰って帰宅したはずだ。

その時、颯真君がどんな様子だったのか……先生に聞いてみよう。

しかし教室で堂々と聞くと、ひどく目立ちすぎる。

なので、私は職員室へ先回りして、里谷先生を待った。

(はるか)も察して「付き合うよ」と、ついて来てくれた。

ありがとう! 遥!
嬉しい!
心強い!
凄く勇気が出るよ!

職員室の前で、待ち伏せするかのごとく、立つ私と遥を見て、
里谷先生は、とてもびっくりしていた。

「あらあら、どうしたの、山脇さん、田之上さん、ふたりそろって」

と、尋ねる里谷先生。

軽く息を吐き、私は言う。

「先生をお待ちしていました」

「え? 私を? 待っていたの? 一体何の用かしら?」

「はい、先生にお聞きしたいのですが、私の隣の席の颯真君……いえ、岡林君、今日早退しましたよね?」

私が単刀直入に尋ねると、里谷先生は「納得した」というように苦笑する。

「ああ、そういう事か。……ええ、確かに岡林君、私に直接、午後の早退を告げに来たわ。理由は体調不良だって」

「やっぱり!」

思わず声が出た。

クラスの女子から聞いた通りだ。

私はその時の、颯真君の様子が詳しく知りたい。

「そ、それで、体調不良って、どこが悪いとか、言ってましたか、颯真君」

岡林君と聞くべきところを、思わずフレンドリーに颯真君と言ってしまう私。

「いいえ。特に言ってなかったわ」

「そ、そうですか……」

身体のどこが悪いと言っていない。
微妙な答えだ。
……ちょっと不安。

「まあ、私が見るに、岡林君、少し顔色は良くなかったけどね」

顔色が良くない!?
うっわ!
私の不安、更に増大!

「え? 颯真君の顔色が? 良くなかったんですか?」

「ええ。これは先生の推測だけど、体調不良の原因は、メンタル面かもしれないわね」

「え? メンタル面?」

颯真君のメンタル面?
どういう事だろう。

私と遥は里谷先生の言葉を待った。

里谷先生は微笑み、言う。

「うん、メンタル面よ。だって岡林君、転入生でしょ? 今までとは違う全く新しい環境だから、慣れなくて、ちょっと疲れが出たのかもね……」

「ええっと……颯真君が今までとは違う全く新しい環境だから、慣れなくて、ちょっと疲れが出たんですか?」

「ええ、そういう事って、たまに聞くじゃない?」

「は、はあ」

「先生が見ていると岡林君は、クラス内で『過剰な人気』もあったし、この学校へ来てから、とても気をつかっていたんじゃないかしら。だから保健室へとかじゃなく、特別に早退を許可したのよ」

成る程。
里谷先生の判断はそうかあ。

ここで、考えていた質問をしないと!
頑張れ、私。

「先生、実は私、颯真君、いえ岡林君に助けて貰って……それでお礼を言いたくて探していたんです」

他クラスの男子に誘われたいざこざです、なんて正直に言えない。
なので、シンプルに助けて貰ったと告げた。

幸い、里谷先生はあれこれ深く追求せずに、そのまま納得してくれた。

「へえ、そうだったの」

「はい。私、岡林君の家へ、お礼も兼ねてお見舞いに行くとか、したいので、住所とか教えて頂けませんか? 無理なら自宅の電話番号だけでも!」

勇気をふるって、何とか言えた。

しかし、そんな私の苦労は無駄に終わった……
里谷先生はにべもない。

「駄目よ、山脇さん、申し訳ないけど、学校の規則でクラスメートといえど、住所や電話番号などの個人情報は教えられないの。万が一、何かあったら困るでしょ?」

個人情報かあ……

残念……まあ、そう言われると思った。
想定内の答え。
甘くはない。

それに私だって、見ず知らずの人に、
スマホの番号とか、住所などの個人情報が知られるのは絶対に嫌だ。

なので私は、先生に謝る。

「分かりました。先生、無理を言って、ごめんなさい! 明日、岡林君が登校したら、直接お礼を言います」

「うん、それが良いわね」

里谷先生は、にっこり笑い、大きく頷いていたのである。