私は、山脇凛(やまわき・りん)

生まれ育った町の某高校に通う高1、普通の16歳女子。

成績、学年で中の上。
顔立ち、容姿、平凡……一応、普通だと思う。

性格、目立つのが苦手で、おとなしい。
趣味、アニメとラノベ。
つまり地味子でオタク、
クラスで埋没している、その他大勢にすぎないモブキャラ。

彼氏なし歴は、年齢イコール、当然16年。

私はクラスでは、あまりしゃべらず、でしゃばらず、本当に目立たない子。
親しい友人はクラスに居るけど、毎日を平々凡々と暮らしている。

そんな私、山脇凛(やまわき・りん)の初恋は、10年前のまだ小さな6歳の頃。

ある日、町のショッピングモールへ両親と出かけた私は、はぐれ、
『迷子』となってしまった。

……私が迷子になった原因は、はっきりとおぼえておらず、記憶がおぼろげだが、
何かおもちゃとか、面白い興味を引くものがあって、
両親と離れ、ついふらふらと見に行ってしまった、そんな気がする。

気が付いたら、周りに両親はおらず、知っている人は誰も居ない!
私は……ひとりぼっちになってしまった……

そう思ったら「きゅっ」とさびしさに心が染まり、
どうして良いのか分からず「わああ~ん!」と大泣きした。

すると、奇跡が起こった。
どこからともなく、私と同じくらいの年齢の男の子が「ぱっ」と現れ、
駆け寄って来て、「大丈夫かあ!」と、笑顔で私を優しく慰めてくれたのだ。

当時の私と同じくらいの年齢なのに、すっごくしっかりした男の子だった。

10年も前で、そして迷子になってひどく動揺していたせいか……
慰めてくれた男の子の顔は、おぼろげにしか憶えていない。
でも「笑顔が素敵な男の子だなあ」と子供心に感じていたと思う。

その男の子はすぐに「君は迷子?」と尋ねて来たっけ。

今でもそうなのだが、その頃の私は、男子がひどく苦手だった。
見ず知らずの男の子に話しかけられた私は、問いに答えるどころか何も言えず、
ただただ不安で泣いていた。

泣きやまない私を慰めた男の子は「にかっ」と白い歯を見せ笑い、
私の手を柔らかく握って、そっと引くと、
ショッピングモールの事務所へ連れて行ってくれたのだ。
手をつないだ感触の記憶は今でも何故か、はっきりとある。
彼の手は……温かかったなあ……

男の子に連れて行かれたショッピングモールの事務所には係のお姉さんが居て、
私の名前とか住所とかいろいろ聞かれた。

対して、男の子に慰められ、やっと泣き止んだ私は、
どうにか、自分の名前と年齢だけを言う事が出来た。

そんな私と手をつないだ笑顔の男の子は、突然言った。

「あはは、ぼくもさ、迷子になった事あるんだよ」

「え!?」

「その時、ここのお姉さんに助けて貰った」

「………………………………………」

「だからさ、お願いすれば絶対に大丈夫だよ! すぐにお父さんとお母さんが来るよ!」

と、私を励ましながら、その間、笑顔の男の子はず~っと手を握っていてくれた

……やっぱり彼の手は温かかった。

ホッとした私も、笑顔になっていたと思う……

そして、男の子の言葉通り、
係りのお姉さんが速攻で店内放送を行い……私の名前を店内中に聞こえるよう連呼。

館内に私の名前が大音量で響きわたるのが、ひどく恥ずかしかった……

……やがて青ざめた両親がすっ飛んで来て、私は無事帰宅する事が出来たのだが、
焦りまくりの両親にガンガンいろいろ言われて、つい男の子の手を放してしまった。

はっと気が付いたら、その場にもう男の子は居なかったである。

「あ、あれっ!!?? あ、あの子!!?? ど、どこっ!!??」

大慌てして、お姉さんに聞いたら、私が両親に詰め寄られ、
いろいろ言われている間に、

「お姉さん、もう大丈夫だよね? ぼく、お父さんとお母さんと待ち合わせだから、もう帰る、バイバ~イ」

と、手を振りながら去ってしまったそうだ。

お姉さんが名前を聞いても、答えなかったらしい。
残念ながらそのお姉さんは、以前迷子になった時の男の子を助けた人ではなかった。

恩人の男の子はどこへ!!??
大慌てしたお父さんとお母さんも、お姉さんにいろいろ聞いて、
私と一緒にショッピングモール中を捜したけど、見つからずダメだった。

なので、男の子を探す手掛かりは、完全になくなってしまった。

がっくりして……家に帰る道すがら、ひどく後悔したのを憶えている。

白馬の王子さまの如く、助けてくれた男の子に名前を聞けず、
ちゃんとお礼も言えなかったから……

だから、それ以来、私は願った。
いつの日にか、男の子に再会して、ちゃんとお礼を言いたいと。

この街のどこかで、また会えるだろうとも……淡い期待をして待つ事にしたのだ。

そして……笑顔がさわやかな、手の温かかった優しい男の子が、
私の初恋の相手なのかもしれない……と心の底から思うのだった。