菫花の口から悲鳴に近い声が出るが、会場の雑音にかき消され、異様な二人の様子に気づく人間はいなかった。
「白川菫花……考えてくれたか?俺のものになれ。そうすれば守ってやる。こっちに来い」
いつだってこの人は威圧的で、罵声や罵倒を繰り返していた。今だってこちらが何も言わない事を良いことに、自分の思い通りにしようとしてくる。これで言うことを聞かなければ大きな声でも出せば良いと思っているのだろう。この人の思い通りになんてさせない。
菫花は頬に触れる桐谷の手を思いっきり叩き払った。すると会場に乾いた肌を打つ音が響き渡ってしまい、そのせいで何事だと、会場にいた人々の視線が私達に集まる。しかし、それを気にする余裕は菫花には無かった。
「桐谷さん。私に触れないで下さい」
キッと睨みつけると、桐谷がニヤリと口角を上げた。
「可愛い飼い猫だったのに、いつからそんな顔をするようになってしまったんだか……。しつけ直しが必要なようだな。だからこちらに来い。お前は俺の物だ。お前に触れて良いのも俺だけだ」
桐谷は人目も憚らず声を荒げ、菫花の腕を掴んだ。
「離して下さい!」
菫花は桐谷に掴まれた腕を振り払おうとするが、強く握られ振り払うことが出来なかった。
「嫌……!私に……私に触れて良いのは蒼紫さんだけです」
菫花が桐谷に拒絶を露わにした時、菫花の腕を握っていた桐谷の腕を蒼紫さんがギリリと音が聞こえそうなほどの勢いで掴んだ。
「うっ……っ……」


