「わっ……分かったよ。ちょっとからかっただけだ、もうしない。絶対にしないから」
「ああ、そうしてくれ。次に同じような事があったら、何するか分からないから俺……」
俺から再び菫花ちゃんに視線を戻した蒼紫の瞳は甘く、彼女しか見えていないと言わんばかりに細められる。
「章、菫花が心配だからこのまま帰るよ」
「ああ問題ない。大丈夫だ。後は俺が説明しておく」
蒼紫は菫花ちゃんを抱きかかえるようにして、さっさとその場から消えた。
「うっわー。マジかー。あんな蒼紫初めて見たぞ。」
あいつは昔からモテる奴で、女を適当にあしらう節があった。いつだって女に本気にならず、すました顔をしていたあいつが……信じられない。あんな風に一人の女性を見つめて、幸せそうな顔をするなんて……。
そうか、あいつは本当に愛せる人に出会えたんだな。
羨ましいな。
俺の回りにはいつだって権力や肩書きに引かれて集まってくる女しかいなかった。それも仕方ないと思っていて、いつの頃からか運命なんて言葉は、夢や幻想なんだと思うようになっていた。
あいつはそんな女性と出会えたんだな。
俺もそんな女性と出会ってみたい。
俺の愛情を一身に注ぐことの出来る女性に……。
俺は二人が去って行った廊下を見つめながら、物思いにふけった。そして、そんな日が来るのだろうかと、自嘲的にフッと笑うと頭をガシガシとかいた。


