菫花は相手を睨むことはせず、ただ淡々と対応した。それが悪かったのだろうか、章さんは瞳を輝かせて、こちらに話しかけてきた。
「わー。この俺にそんな対応する子、初めてだよ」
「そうですか」
「きみ凄く良いよ。興味が湧いた」
「私は全くもって興味がありませんが」
「そういう所だよ。いいねー。蒼紫が側に置く理由が分かる」
章さんは楽しそうに私の手を取った。そしてその手を自分の唇に押し当て上目遣いで微笑む。それはまるで王子様のようで、回りで見ていた女性達から「キャーー!」と黄色い悲鳴が上がる。しかし私の背中にはゾワリと冷たい物が走り、悪寒で体が震えた。腕を見ると鳥肌が立っている。
思わず取られていた手を引っ込めて、自分の手をさする。
「そうそう。そう言う反応、面白い」
「私は面白くありません。こういうことは止めて頂けますか」
満面の笑みをこちらに向ける章に、菫花はピシャリとシャットアウトするように言い放った。すると章はよほど驚いたのだろう、口を開けたまま、目を見開いていた。
「マジかよ。俺の渾身の笑顔で落ちなかった女なんていなかったのに……」
何を言っているんだこの男。
よほど自分に自信があるらしい。
菫花は溜め息を付くと、章に向かって頭を下げた。
「関谷さん、申し訳ありませんが仕事ではないので、これで失礼します」
スンッと表情を変えずに私は歩き出した。
「あっ……菫花さんまって!」
「待ちません」
「分かった、じゃあまた会社で」
「…………」
私は章さんの言葉には答えず、その場を後にした。後ろの方から何か聞こえてきたが、仕事には関係の無いことだったので無視をすることに決めた。


