不倫日和~その先にあるもの……それは溺愛でした。


 *

「菫花」

 蒼紫さんが私の名前を呼んだ。

 蒼紫さんは私に自分の名前を呼ばせても、決して私の名前を呼ぶことはなかった。その人が私の名前を呼んだ。

 その甘く優しい声に体が震える。

 こんなふうに呼ばれたら勘違いしてしまいそうだ。

 だから一呼吸して冷静になる。勘違いをしてはいけない。

「あの……蒼紫さん……何かあったんですか?大丈夫ですか?」

 そっと蒼紫さんの頭に手をのせゆっくりと動かしてみる。よしよしと声を出したら怒られそうなのでやめておく。すると、ゆっくりと顔を上げた蒼紫さんの瞳はユラユラと揺れていて、今にも涙がこぼれ落ちてしまいそうだった。私は何が起こっているのか分からず息を呑んだ。

「菫花……菫花は俺が嫌いか?」

 えっ……。

「俺は……」

 蒼紫さん……?

 蒼紫さんが苦しそうに眉を寄せた。

「俺を……父さんではなく、俺を見てくれ」

「紫門さんの?」

「父さんの名を呼ぶな!俺の名を呼んでくれ。菫花がどんなに父さんを愛していても、今お前の前にいるのは俺だろう」

 乞い願うように、こちらを見つめる蒼紫さん。

 これはどういうことなのだろうか?

 目元を赤くさせ今にも泣き出しそうな顔で、蒼紫さんは何を訴えているのだろう。

 これではまるで愛の囁きだ。

「菫花……」