*
ドンッという衝撃を受けて菫花はよろめいた。一体何が?と思い顔を上げると、女子社員達がクスクスと笑いながらこちらを見ていた。
「ぷっ……たかが清掃員が社長達に色目を使うからよ」
「身の程を知りなさいよ」
私の近くにあったバケツを女子社員の一人が斜めにし、汚水を廊下にゆっくりと広げた。バケツの汚水が廊下を汚しながら広がるのを菫花は黙ったまま見つめる事しか出来なかった。
「掃除のおばさん、廊下を汚したらダメですよ」
「綺麗にしてくださ~い」
「お仕事サボらないで下さいね。お・ば・さ・ん」
クスクスと笑いながら女子社員達は、背を向けて行ってしまった。それから日に日に彼女たちの嫌がらせは酷くなっていった。
「また社長や副社長に色目を使っているらしいよ」
「あの女、何なのかな?」
「地味女のくせに」
どうやら私に社長や副社長が声を掛ていることが、気に入らないようだ。更に先日、倒れた私を副社長が医務室へと運んだことが噂となり、嫌がらせが酷くなっている。
辛いな……。
ブラック企業で働いていた頃ほどの辛さは無いが、心が折れそうになる。
溜め息を付きながら、菫花はトイレの扉を閉めた。すると突然頭の上から水が降ってきた。
何?
このような状態で自分の体が水浸しになる理由が分からず、脳がフリーズする。とりあえず水の落ちていった下から上に視線を向けると、トイレの四角い空間が目に入る。しかしそこはいつもと何も変わらなかった。
どういうこと……。