*
3日後……。
私は眉間に皺を寄せ、不機嫌な様子を隠そうともせずに立つ男の前で、体を強ばらせていた。
「お前、ここを辞めろ」
「えっ……」
男性の言っている意味が分からない。
何故この人にこんな事を言われないといけないのか……?
体を震わせながら菫花は一歩後ろに下がった。
「そうやってビクビクと……。そんな演技は俺には通用しない。この阿婆擦れ女が」
阿婆擦れ女……?
私がこの男性に会うのは本日をいれても二回だ。だと言うのにこの言われようはどういうことなのだろう。
「そうやって男を手玉に取っているのだろう。それとももっと違う方法で?俺に教えろよ」
男性が私の行く手を阻むように、壁を強く拳で叩きながら手をついた。
いわゆる壁ドンだ。
しかしそれはマンガやドラマで見るような甘いものでは無かった。壁がドンッと大きな音を立てる、その過激な好意はもはや暴力と言っていいだろう。
菫花は自分を守る様に自分の肩を抱いた。
「何だ?か弱い女の振りか?したたかな女狐のくせに」
話すたびに男性の威圧が強くなっていく。空気が重く、気圧される。
菫花は男性から放たれる相手を押さえつけるような物言いに、口を開くことが出来なかった。
酸素をうまく取り込むことが出来ない。
ヒュッ、ヒュッと漏れる息……うまく酸素が肺に入ってこない。
苦しい、怖い……助けて……。
私は縋るような思いで、声を出した。
「紫門さん……っ……たす……けて……」
それを聞いた男が、力任せに拳で壁を殴った。
「ドンッ!」
また大きな音を立てて壁が鳴った。
「やっぱりな……お前は……」
男性が憎悪を露わにしながら何かを言っていたが、菫花の意識は薄れていく。
限界だった。
もうダメ……立っていられない。
菫花の意識はそこでプツリと途切れた。


