手紙を読み終えた菫花は、胸の奥から溢れ出ようとする何かを感じた。

 これは……。

 もう一度手紙に視線を落とすと、温かいものがポトリと落ちてきた。

 一粒の雫が手紙の文字を滲ませた。

「……っ……ふっ……」

 喉の奥が詰まり、声にならない息が漏れる。それと同時に瞳の奥の熱さを感じた。

 これは私の奥底に残された感情……悲しみだ。

 やはり私の中にある感情を引き出してくれるのはこの人だけ。感情を取り戻せて嬉しいと思うのと同時に後悔もした。

 紫門さん……。

 苦しい……。

 辛い……。

 悲しい……。

 こんな思いをするなら、こんな感情思い出したくなかった。

 紫門さんからの手紙を抱きしめ、菫花は泣いた。

 溢れ出した涙が頬を伝い流れ落ちていく。 

 私は紫門さんから沢山の優しさを貰ったというのに、何も返すことが出来なかった。こんなに沢山のありがとうを言われる資格なんてないのに……。感情を無くした私にいつも微笑み、話しかけてくれた紫門さん。ここまで感情を取り戻せたのは紫門さんのおかげだ。

 瞳を閉じれば紫門さんの優しい笑顔が浮かぶ。

 これは不倫だと楽しそうに笑う紫門さん。

 あなたに「ありがとう」が言いたい。

 言いたかった。

 そして最後に笑いかけたかった。私が笑うことをあんなにも切望していたのに、最後まで笑うことが出来なかった。最後に笑って「さようなら」が言いたかった。

 紫門さん……。

 菫花は声を上げて泣いた。

 それはまるで駄々をこねる小さな子供みたいに、大きな声を出して泣いた。

「うあぁーー!紫門さん……紫門さん……嫌だよ……お願いっ……っ……側にいて……うあぁーー。一人は嫌だよ……うあぁぁーー」

 恋い焦がれてやまない思い人を求めて、菫花は泣いた。

「紫門さん……うっ……いかないで……私を……っ……おいてっ……いかないで……私を……一人に……っ……しないで……うあぁぁーー紫門さん……紫門さん……紫門さん……」


 一晩中……菫花は声がかれるまで紫門の名を呼び、泣き続けた。