三途の駅のおくりもの







 ……誰かが呼ぶ声。薄く開いた瞼の間に、橙色の空が見える。淡く綺麗な空。俺は何をしたんだっけ。朦朧とした意識が、一番聞きたかった声によって一気に現実に引き戻される。


「智紀!」

「……舞依」


 子どもみたいに泣く舞依の頬に触れて涙を拭う。体温を感じて、あたたかい。生きてる。舞依は、生きている。


「何やってんの……」

「ごめん。電車、吹っ飛ばした」

「なんでこんな、無茶したの」

「……俺の寿命、あと70年だって。誰かさんのおかげで。だから俺は今日死なないって決まってた」

「だからって、なんで、ここまで……智紀らしくないじゃん」

「たまにはいいだろ。舞依に生きてほしかったんだよ」


 作成は成功だった。電車に物理的な影響を及ぼせることは眼鏡の犠牲で把握していた。トラ猫がすり抜けたことを考えると、電車を認識できているかの違いだろう。ただ、あの電車がなくなったことで、今後あれに乗るはずだった魂がどこへ行くのか、どうなってしまうのかはわからない。それでも、舞依も俺も生きている。今はそれだけでよかった。


「……ありがとう、智紀」

「お互い様だろ。ありがとな、舞依」

「これからどうなっちゃうのかな」

「さあ。……まあ生きていれば、受け入れることも、あがくこともできるんだ。だからきっと、大丈夫」


 舞依は泣きながら笑う。


「智紀が言うなら、そんな気がする」


 俺は半分雪に埋もれた格好のつかない状態で、思わず舞依を抱きしめた。伝えるのなら今だと思った。

 消された手紙の最後の一行、きっと同じと信じている、俺たちの感情を。