三途の駅のおくりもの




 言いかけたとき、どこからともなく、老人が現れた。背中の曲がった爺さんが、俺たちの間を通り抜けていく。俺が呆気にとられているうちに、爺さんは当然のように券売機の切符を手に取り改札の向こうへ歩き出す。舞依を見ると、手を合わせて爺さんを見つめていた。

 いつの間にかホームに停まっていた電車に爺さんは乗り込んで、それに舞依は小さく手を振った。それまで俺たちを気にも留めなかった様子の爺さんだったが、応えるように微笑みを浮かべる。

 ささやかな儀式。それでもあの爺さんにとって、うれしいことだったのは間違いないだろう。それほど穏やかな笑みだった。


「止められないんだよね、もう。何をやってもダメだった。きっと、切符が発行された時点で決まってるんだよ。運命ってやつ?」


 俺が何も言えないでいると、券売機のやけにうるさい稼働音が響いた。ふいに目をやると、取出口には一枚の切符。たった今発行されたらしい。つまり明日死ぬ誰かの名前が刻まれている。

 舞依はそれを手に取って、すべらせたのか床に落とした。そのままなかなか拾わないので、代わりに俺が手を伸ばす。


『久納 舞依』