もしかして、さっき杏たちが言ってたブスの踏み台とは、私の事だったのかな。
杏はよく二階堂くんの噂話をしてたから、きっとそう。
もしこの手紙が彼女たちの仕業だとしたら酷すぎる。
人の気持ちもお構いなしに私を踏み台にして二階堂くんに告白するつもりだったんだ。

……最低。
私が気に食わないのはわかるけど、そこまでしないと気が済まないのかな。
せめて憧れの人にだけは自分で気持ちを伝えたかったよ。

結菜は惨めな気持ちになりながらも目をギュッとつぶって心の中で覚悟を決めた。



「あのね、実はその手紙は私が書いたものじゃ……」
「いいよ。付き合おう」



その返事を聞いた途端、身体の動きが一旦停止した。

一瞬、聞き間違えだと思った。
そんな都合のいい返事が届く訳ないと思っているから。



「へっ?!」

「俺も彼女になって欲しいと思ってたから」



嘘……。
聞き間違えなんかじゃない。
見知らぬラブレターに、憧れの人から『彼女になって欲しい』という返事。
しかも、これはゲームじゃないし夢でもない。
クラスメイトが見守る中で憧れの人からの告白にびっくりして口が塞がれた。


もし、これが杏だったら友達が駆け寄ってきて「おめでとう」「良かったね」等の歓迎の嵐だっただろう。
教室内がシンと静まり返ってる時点で、私は自分の立場を思い知らされている。


バシンッッ……


右隣からほんわりした空気を一掃させるような落下音が耳に響き渡った。
すかさず音の方に目を向けると、杏の正面の机の下にはお弁当が落ちている。
杏はひざ裏で勢いよくイスを押し当てると、キッと私を睨みつけて教室を出て行った。
その様子を見た友人2人は、「杏〜」「ちょっと待ってよ〜」と心配そうに後を追った。


また、やっちゃったかな……。

私はこの瞬間、悪夢を生み出した時の出来事が脳裏を過ぎった。