ーーそれから7分後。
彼は再びダイニングへ戻って食べ途中の料理に手をつけた。
私はその姿を横目にソファに座ったまま洗濯物を畳む。

学校が終わった後に仕事に行って、仕事が終わったら帰宅して、疲れた身体で一息つきたくても幼い妹の世話がある。
心休まる時間がないんだなぁ〜と思ったら、彼を見る目が少し変わった。



「ねぇ、どうして一般の高校に通ってるの? 芸能人御用達の高校に進学する手段もあったんじゃない?」

「逆にどうしてそんな事を聞くの?」


「だって、変装をしてまで通うのは大変じゃない? それに、正体がバレたら、ただごとじゃ済まなくなるんじゃないの?」

「身バレしたら転校するつもり。それくらい腹くくって学校行ってる」


「えっ……」

「俺が一般校に通ってる理由は世間勉強の為。一般人に紛れて色んな人を観察して演技に活かしていきたいから。それに、有名人だからといって特別扱いされたくないし」


「(理屈っぽく言ってるけど、私も人間観察されたうちの1人よね……)それなら、いつも机で寝てないで友達作ればいいのに」

「友達? お前がいるよ?」


「そうじゃなくてっ! 普通に男子の友達とか」

「面倒くさい」



……なんか、調子狂うなぁ。
この人とは根本的に考え方が違うんだよね。
本当は一線を引いて付き合うのが正解なのに、余計な心配してるし。

ところが、結菜は喋っているうちにちょうどある事を思い出した。



「そうだ! 日向に大事な話をしようと思ってたんだ」

「なに? 大事な話って」


「ミカちゃんの事なんだけどね。もしかしたら、何か悩みを抱えてるんじゃないかなぁと思ってて」

「どうしてそう思うの?」


「部屋にあった人間の絵の顔がクレヨンで黒く塗りつぶされていたの。それをみちるに相談したら、人に言えない悩み事があるんじゃないかと言ってて。何か思い当たる節はある?」

「ないけど」


「本当に?」

「本当に」


「おかしいなぁ……。もしかしたら見当違いかなぁ」



結菜が心配そうにブツブツひとりごとを言ってると、日向は席を立ち上がって空の食器をキッチンのシンクへ持って行き、水道の蛇口レバーを上げてお皿を流水に浸しながら真顔で言った。