「ヒナちゃん、飲んでる?」
「あ、はい!」
グラスに手をかけたままぼうっとしていたせいで、思い切り元気に返事をしてしまう。
「よかった!じゃあ次も頼んでみよっか」
「あー、えっと、そろそろジュースとかにしようかなと…明日も朝から授業あるんで」
「俺も明日はバイトかけもち!そろそろ新メニュー覚えないとだね」
明るく流されて、ドリンクメニューを一緒に持たされる。石井さんの少し抑えた声が聞こえてきた。
「…よかったら、このあとどっかいかない?もうそろそろこっちは終わりじゃん?」
「えっ、いえ… 明日もはやいから」
ってさっきも言ったんだけどな。
「そっか…残念」
にっこり笑って石井さんはあっさり引いてくれた。
そういえば、彼はとても面倒見いいし仕事も良くできて評判だ。けれども手もとても早いとかなんとか…
そのときは笑って聞き流していたけどまさか、自分にそんなことが起こってるわけないし…。
頭に浮かんだ疑念をふるふると振り落とす。余計に身体がぽわぽわとしてきて、またあの店員さんが悠真に見えた。なぜかちょっとした罪悪感さえ覚える。
「ちょっと、お手洗い、いってきます」
かすかに揺れる視界を持て余しながら席を立つわたしには、意味ありげな目線をこちらに投げていた石井さんに全く気づかなかった。



