夜の街の景色がみるみる後ろに流れていく、なんて映画みたいなことにはなるはずなくて、ぐらぐらと揺れる体によけい酔いが回りそう。
早くも息を切らしがちな悠真は堪え切れないように、
「・・・おま、!お、重っ…」
「あっ、あたりまえでしょ!ちっちゃい時とは違うんだよ!」
恥ずかしいのと逃げてきた罪悪感で頭が沸騰してるみたい。思わず強い口調になった。
「ちょ、もう、しゃべんな!よけい揺れるだろうが!」
「なっ…!乗れって言ったくせに!ゆうまのばか!」
「動くなって!おまえのこと助けたんだろうが!」
そんなこと、頼んでないよ。
抗議の言葉の代わりに背中にぐっとしがみついた。元陸上部の悠馬は仄暗い通りや雑多な光の中を、賑やかな夜を、ずんずん進んでいく。
荒い息遣いと、すこしだけ、汗の匂い。
さっきのお店の甘ったるい香りがどんどん後ろへ流れていった。
たっぷり一駅分、悠馬は私をおぶって歩ききって、ほとんど人気のない駅前のベンチに降ろしてくれた。
乱暴な言葉とはうらはらに、壊れものを扱うようなゆっくりとした優しいその手つきに、なぜか胸のあたりが苦しくなる。



