水族館の中に一歩足を踏み入れると、椿たちの前に大きな水槽が姿を見せる。水槽の中には大きな鯛などの魚がいくつも泳いでおり、多くの人が足を止めて見つめている。

「すごい……」

ドラマでしか知らない巨大な水槽が今、目の前にある。椿が思わず呟くと、隣からシャッター音が響いた。椿が隣に目を向けると、腕を組んだままの姫乃が清貴と自撮りをしようとしていた。

「清貴くん、ちょっとは笑顔を見せてよ。また撮り直しじゃない!」

「こんなところで自撮りなんて邪魔だろ。最低限の常識もわからないのか?そろそろ腕を離せ」

清貴は強い口調で姫乃に言うものの、強引に腕を振り解こうとはしない。それは姫乃の履いている靴がヒールの高いものであり、無理矢理振り解くと彼女が絡んで怪我をしてしまうかもしれないという医師としての考えからなのかもしれないと椿は考えた。しかし、依然として椿の胸の中の奇妙な感覚は消えることはなく、むしろ大きくなっている。

(胸がすごく痛い……。入院していた時、心臓に異常はないって言われたはずなんだけど……)