食べている途中で清貴は箸を置き、どこか緊張した様子で椿に声をかける。眼鏡の奥にある瞳は左右に動き、どこか落ち着きがない。

「清貴さんはお仕事でお疲れではありませんか?ゆっくりされた方がよろしいのでは……」

椿も箸を置き、清貴をジッと見つめながら言う。清貴はすぐに首を横に振って否定した。

「俺は元気だよ。それに、ずっと休日は家に篭ってばかりだからどこかへ行きたいんだ」

これまで椿は、清貴から何度か遠回しに「どこかへ行かないか」と言われたことはあった。しかし、医師という多忙な職に就いている清貴を疲れさせてしまっては申し訳ないと椿はやんわりと断り、スーパーの買い出しなども一人で行っていた。いつも休日は、二人共家におり、配信されている映画やドラマを見て一日を過ごすことが当たり前となりつつあったのだ。

「俺の記憶が正しければ、二人で出掛けたのは服を買いに行ったことと、おばあ様に挨拶をした二回だけだ。普通の夫婦なら、もっと出掛けるものだろう」

「清貴さんのご迷惑になりませんか?」

「迷惑なんじゃない。むしろ逆に、俺が椿と出掛けたいんだ」

「そ、そうですか……」