サラリと褒められ、椿の頰が赤く染まる。異性に誉められたことなど数えるほどもない。そのため、ちょっとした言葉でも椿の胸は嵐が訪れたかのように揺れていく。

(こんなの、きっとただのリップサービスのはずなのに……!)

清貴の顔を恥ずかしさから見ることができず、椿は慌ててバッグを手にし、彼の横を通り過ぎようとした。刹那、腕を素早く掴まれる。

「ひゃっ!清貴さん?」

「ちょっとジッとしてもらってもいいか?」

清貴の指が椿の唇の近くに触れた。顔を固定されてしまっているため、清貴の真剣な顔が椿の視界いっぱいに広がる。キスをしてしまうのではと思ってしまうほど、二人の距離は近い。頰につけられたチークが意味をなさないほど、椿の顔中が熱くなり、真っ赤になっていく。

「よし、取れた。口紅が少しはみ出ていたぞ」

「あ、ありがとうございます……」

ドッと疲れが押し寄せてくるのを感じた。椿は、未だに鼓動が早まっている自身の胸元に触れる。先ほどの出来事は夢ではないとこの鼓動が教えていた。