テーブルの向かい側で笑顔を見せる清貴を思い出し、椿は頬を緩める。料理などの家事は使用人同然の生活だった頃は、やらなければ叱られるためやらざるを得なかった。何も感じずに淡々とこなすだけだった。しかし、今は違う。

(清貴さんに喜んでもらいたい……)

そう自然と考えるようになり、献立を考えるのが楽しくなっている。清貴の笑顔を想像しただけで、椿の足はどこか浮き足立っていた。

「早く買って帰らないと!」

外は薄暗くなり始め、道を歩く人の姿はない。都会はどこにでも人が行き交っているイメージだが、大通り以外は閑散としている場所もある。そして、薄暗く人気のない場所は犯罪が起きやすい。

椿の背後から狭い道だというのに、スピードを上げて車が走って来る。タイヤが高速で動く音が椿の耳に響き、何気なく彼女は後ろを振り返った。

「ッ!?」

それは一瞬のことだった。車は椿の前を塞ぐように止まり、中からフードを被った人物が降りてくる。そして椿の腕を掴んだ。

抵抗することも、声を上げることもできないまま、椿は車の中に引き摺り込まれるように強引に乗せられた。