椿は胸を高鳴らせながら清貴の首に手を回していた。赤く染まった顔を見られるのが恥ずかしく、清貴の顔を見ることができない。しかし、胸の中には助けてくれた喜びが渦巻いていた。

お姫様のピンチに駆け付ける王子様、とは先ほどの清貴のことだろう。椿は思い出し、口元を緩ませてしまう。

「……清貴さん、ありがとうございました」

「いいんだ。俺の方こそ、怖い思いをさせてすまなかった」

血のついたブラウスを着てレストランに戻るわけには行かず、椿は医務室で手当てをし、汚れた服を着替えてから戻ることになった。

「午後から何に乗りますか?」

「そうだな……。観覧車とかどうだろうか?」

そんな話をしている二人は気付いていない。通り過ぎた女子大生と思われる女の子の中に梓がおり、幸せそうに笑う椿を見ていたことを……。

「あれって、あのブス……?」

梓の驚きに満ちた呟きは、遊園地を楽しむ人々の声でかき消されてしまった。