蜜月溺愛心中

「おっ、来た来た！」

「ありがとうございま〜す！」

五番テーブルに座っている家族はお礼を言い、コンロの空いている場所にカルビを並べていく。椿は頭を下げ、すぐに次のテーブルへと肉を運び始めた。

（この牛タンは十番テーブルね）

倦怠感を感じつつも、椿は「頑張らなくちゃ」と自分に言い聞かせ、牛タンの盛られた皿を手にテーブルへと向かった。

「失礼します。牛タン盛り合わせです」

十番テーブルにいたのは、家族連れではなく男性数人だった。椿が頭を下げてテーブルから離れようとすると、「ちょっと待ってください」と一人に声をかけられる。

「あの、大丈夫ですか？顔色がとても悪いです」

黒いマッシュスタイルの髪は艶やかで、かけられた眼鏡の奥には猫のようなつり目がある。半袖Tシャツの上にデニム生地のテーラードジャケットを羽織り、テーパードパンツを履いた上品そうな男性である。その顔は「芸能人です」と名乗っても違和感がないほど整っており、椿の胸が高鳴る。

「あっ……えっと……」

椿が口を開くと、男性の隣に座っていた人が「さすが医者！」と笑いながら男性の肩を叩き、他の人たちも笑い出す。よく見るとテーブルの上にはビールジョッキが並べられており、どうやら椿に声をかけた男性以外はお酒を飲んでいるようだ。顔を真っ赤にしながら笑っている。