蜜月溺愛心中

エレベーターを降り、部屋のドアノブに手をかけると何の抵抗もなく開く。玄関には見慣れた清貴の靴があり、医師として多忙な彼が珍しく早く帰って来れたのだとわかった。

「ただいま帰りました!」

そう椿が大きめの高いトーンの声で言うと、長い廊下の先、温かさを感じるオレンジに近い色の光が見えるリビングの扉が開き、清貴が姿を見せる。互いの顔を見た二人は、微笑みあった。

「おかえり」

清貴がそう口にする。何度も言い合っている言葉だというのに、椿の胸は締め付けられるように苦しくなる。だが、それがどこか愛おしい。

「エコバッグ、重いだろ?持つよ」

近付いてきた清貴の大きな手が、エコバッグを攫う。手にあった重みが消え、椿は「ありがとうございます」と言った。清貴は「こんなに重いのに、俺が買い物に行けなかったからな」と笑う。

リビングに入ると、ふわりといい香りが漂ってきた。テーブルを見ればレタスチャーハンとわかめスープが並べられており、椿は驚く。

「清貴さん、これって……」

「早く帰って来れたから、レシピを見ながら作ってみたんだ。いつも椿にしてもらっているからな。うまくできているかはわからないが……」

椿の横で清貴は照れ臭そうに目を泳がせ、長い指で髪の先をいじる。椿の胸の奥から、温かい波が押し寄せてきた。