蜜月溺愛心中

駅前にある焼肉屋は家族連れに人気の店であり、いつも人で賑わっている。そして毎月二十九日は全メニューが安くなるため、二十九日はいつも以上に忙しくなる。今日がその二十九日だ。

「お疲れ様です。よろしくお願いします」

黒いTシャツを着て働いている従業員に挨拶をし、椿もバックヤードで制服である黒いTシャツに着替える。

「大丈夫？椿ちゃん、顔色悪いけど……」

着替えをしていると、仕事が終わりTシャツを脱いでいるパートの中年女性に話しかけられる。頭はどこかぼんやりしているものの、椿は「大丈夫です」と力なく笑った。

着替えを済ませると、すぐに椿は「これ、五番テーブルに持って行って！」と頼まれ、カルビが山盛りにされた皿を受け取る。

この焼肉屋はタブレットで客が注文し、注文した肉などを従業員が運ぶシステムになっている。椿は早速五番テーブルにカルビを運んだ。

「失礼します。カルビの盛り合わせです」

五番テーブルで肉を待つ客に声をかけ、皿をテーブルの上に置く。テーブルの中心にあるコンロでは様々な種類の肉や野菜が焼かれており、いい匂いが漂っている。