でも唇を噛んでグッと堪える。



「? 今回は泣かないのか?」

「はい。経緯はどうあれここに来れたので、実家のことは全部忘れて今日は笑っていたいんです」



へへ、と笑顔を向けると豹牙さんも薄い笑みを浮かべた。


こんな風に笑ったのはいつぶりだろうか。
いつも作り笑いばかりしていたから、笑い方なんてとっくに忘れてると思ってた。

本当に、ここに来れてよかった。


どこか清々しい気持ちになったところで、春風が不揃いな髪を揺らした。


こうして『私』の生が始まった。