「もう泣き止んだみたいだな。じゃあ俺もう帰るからな。お前もさっさと帰れよ」
彼はちらりと私を見た後そう言ってベンチを発った。
あっ・・・行ってしまう。
そう実感した途端、無意識に手を伸ばしていた。
「ま、待ってください!貴方のお名前、聞いてもいいですか?」
呼び止められた彼は肩越しに振り返った。
そして少し考える素振りを見せてから口を開く。
「豹牙」
「豹牙、さん?先輩?」
「好きな方でいい」
「じゃあ豹牙さんで」
何となくそっちの方がしっくりくるから。
豹牙さん、ともう一度心の中で繰り返していると、今度は豹牙さんが疑問を投げかけた。
「お前は?」
「え?」
「名前」
「い──冴妃です」
一条冴妃、と言いかけて辞めた。



