ゾンビ化した総長に溺愛されて始まる秘密の同居生活

 鬼龍会の名前はうっすら聞いた事がある。県内でもトップクラスの大規模な暴走族。うちの学校にも何人か生徒が所属している噂もあった。その生徒は勇人も該当する。

「多賀野勇人は鬼龍会の総長」

 という噂だ。鬼龍会のメンバーは暴走族の中でも特に荒くれ者が多いとも聞いた。
 そんな鬼龍会の拠点がここなのか。

(誰もいない)

 倉庫の中はパイプ椅子が乱雑に置かれ、所々に灰皿や鉄パイプに紐なんかがコンクリートの床の上に置かれ放置されている。灰皿にはタバコの吸い殻もあり、いずれもあまり埃を被っていない辺り、少なくともゾンビパニック直前まではここに人がいた可能性はある。

「誰もいないね」
「ああ……」
(皆散り散りになったんだよね)
「皆に……見せて、やりたかった」
「何を……?」
「ひ、め……」

 ひめ。姫で合っているのだろうか。姫で合ってるなら誰を指すのだろうか?

「姫って誰? 人間? それともペット?」
「……果林」
「え?」

 果林と私の名前を呼んだはずだが、勇人は私の問いかけには応じず、そのまま停めたバイクの方へと踵を返していく。
 その時。作業着を着た男性のゾンビがふらりと手を伸ばしながら倉庫に入って来る。だが勇人はそのゾンビに一蹴り浴びせるとゾンビは動かなくなった。