ゾンビ化した総長に溺愛されて始まる秘密の同居生活

 勇人が喋った。しかし、どう考えても常人の発音には聞こえない。たどたどしい発声は吃音のそれとも違う。

「え……」

 すると勇人が私の方へと、ゆっくりと歩み寄る。歩き方もどことなくかくかくとしていてぎこちない。なんだか人間の歩行とは違うと言うか、ゾンビのイメージ通りと言うべきか。

「果林」
「!」

 呼んだのはまさしく、私の名前だった。というか私の名前を知っていたとは。どこで知ったのか。

「オマエノ……チガ、ホシイ」
「え」
「血。チ。血が、ホシイ」

 血がほしい。そう聴き取れたのと同時に私は激しく動揺する。

(どうやって?!)

 ゾンビにどうやって私の血を与えるのか。あと体液を介する事で私もゾンビになったらどうしようという不安と痛いのは嫌だという思いが複雑に胸の中でぐるぐると周る。

(だけど……)

 勇人はじっと私を見下ろしたままだ。このまま血を与えないと食べられるじゃないだろうか。そんな不安も胸の中で芽生え始める。
 考えた結果。とりあえず私は台所に向かい包丁を取った。

(い、痛いのは嫌だけど仕方ない!)

 私は思い切って包丁を左腕の手首とひじの間付近に包丁を当て、切った。ぴっと血が滴り落ち、ずきりと痛みが走る。

「っ!」

 勇人が私の左腕を優しく掴むと、血が出ている箇所をぺろぺろと舐め始めた。