「おやじ」
 と、まこと。
 麻戸宅玄関。
 そこは広い土間になっていた。正面は畳の居間であった。まことは靴を脱いであがった。父は居間に入ってリュクをおろしていた。まこともリュックをおろした。
 「さあて、荷物を降ろさなければ」
 と、父。
 父は胡坐をかいた。まことも胡坐をかいた。
 「さあて、そろそろ荷物をまとめるかのう」
 と、父親。父親はリュックに向かい合った。リュックの中のものを出していく。
 「なあ」
 と、まこと。
 「ああ」
 まことは立ち上がった。
 「で、私の部屋は?」
 父親は動きをとめた。
 「ああ、そうじゃった。向こうじゃ」
 と、父が指さした。
 「ありがとうよ」
 まことはリュックを持って、部屋へ向かった。ふすまを開けて、入った。そこはこじんまりした部屋だった。
 「うん。悪くねえ」
 まことは言って、リュックを下した。まことは、リュックを置いた。まことは窓へ行った。窓を開けた。冷たい風が入った。
 「うわあ。さむう」まことは窓を閉めた。
 「さあて荷物を片すかあ」
 といってまことはリュックの中にあるものを出していった。
 「まこと、片しておるか」
 「ああああああああ、娘の部屋に勝手に入ってくんじゃねえ」
 「ああ、そうだった。年頃の息子にはいろいろあるからのう」
 「おやじ、今なんて?」
 「ああ、年頃の男にはいろいろあるでのう」
 「おやじいいいいいいいい」
 まことは、父親につきを入れた。父はまことのこぶしを軽く受け止めた。
 「ん」
 「おぬしのつきなぞ、くらっても蚊に刺された程度にしか感じんがのう。一応受け止めさせてもらった」
 まことはこぶしをひっこめた。
 「相変わらず超人的につえなあ」
 と、まこと。
 「ふん。おぬしがまだまだなだけじゃ」
 「ああ」
 父は背を向けた。そうして出て行った。まことはふすまのところにいった。
 「二度と入んな」
 まことはふすまをしめた。
 「はあ」
 まことはため息をついた。