「キャンディス皇女様!?」

「キャンディス皇女様、しっかりなさってくださいっ」


そんな声がぼんやりと耳に届いた。
遠くなっていく意識と頭が強く痛むのを感じながらキャンディスは目を閉じた。


───ディアガルド帝国。


広大な領地と複数の民族を支配する絶対的な君主が存在した。
それがヴァロンタン・ドル・ディアガルド。
グレージュの髪にアメジストのような瞳を持つ男性だ。

ヴァロンタン皇帝は先代皇帝を殺した後に兄弟たちを皆殺しにして、腐敗していた内部を破壊して新しい時代をもたらした美しき暴君である。

先代皇帝モアメッドの十番目の息子だった彼は爵位も持たぬ娘の子供だった。
モアメッド皇帝は街で働き、平民だったヴァロンタンの母を『美しい』という理由だけで召し上げる。
そのため、後宮での居場所はなく母とヴァロンタンは虐げられて心を病んでいく。
ヴァロンタンはそんな影響を大きく受けて歪んだ幼少期を過ごす。
女好きだったモアメッド皇帝の後宮には帝国から集められた女達で溢れかえっていた。
兄姉たちは爵位を持ち、後ろ盾も十分。
やりたい放題だった。
しかし力のないものたちは宮殿内で玩具にされ死んでいく。
その中にヴァロンタンの母も含まれていた。