「ありがとう、ユーゴ。助かりましたわ」

「……!」


キャンディスはにこやかに笑みを浮かべながらユーゴにあえて御礼を言った。
そんなキャンディスの行動にヴァロンタンの眉がピクリと動く。
ユーゴも驚いたのは一瞬だけで、すぐに表情は元に戻り「どういたしまして、皇女様」と言った。

そしてキャンディスは息を整えた後に挨拶するためにドレスの裾を持つと頭を下げた。
そしてそのままヴァロンタンが話しかけるまでは何も言わずに待っていた。

(話しかけないで!話しかけなくていいからそのまま通り過ぎて……!あの日のことを思い出して泣いてしまいそうだわ)

通常、目上の人から話しかけられなければ挨拶をすることすら許されない。
時が巻き戻る前までは娘だという理由で、会えば自分からガンガン話しかけていたキャンディスだったが、今はもう真逆作戦により関わりを持たないようにしなければならない。
緊張からかドレスの裾を持つ手にじんわりと汗が滲む。

何も言葉もないが無言で向けられる視線。
子どもの体にはこの体制をキープすることが厳しくなり、そろそろ限界が近づいている。
足がフラリとした瞬間にカチャリと音が聞こえてキャンディスは肩を揺らした。