神坂家がご贔屓にしているレストランのケータリングサービス。
お料理は勿論のこと、ケーキもとても美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまう。
采人さんとクリスマスディナーをするものとばかり思っていた夕映に待ち受けていたのは、婚姻届にサインするという公開処刑のような一大イベント。
書きたくない。
書けません。
今書かないとダメですか?
だなんて、言えるはずもなく。
夕映は注がれる視線に耐え切れず、婚姻届に署名した。
そして、両親からの結婚祝いのプレゼントとして贈られたのは、私のためにコツコツと貯めてくれた貯金通帳とそれに使った印鑑。
その印鑑で、婚姻届に捺印。
もうこれを提出すれば、私は人妻ということだろうか?
「夕映さん、食べてる?」
「はい、戴いてます」
もう限界とばかりに食べた気がする。
現実から逃避したいがために、お酒と料理に意識を飛ばした結果。
お腹ははち切れそうだし、ふわふわと心地いい浮遊感に襲われる。
「夕映が限界っぽいから、そろそろいい?」
「そうだな。仕事で疲れてるだろうし、ここはもういいから」
「夕映、帰るぞ?歩けるか?」
「帰るって?……お家はここです……よね?」
「ここは夕映の両親が今日泊まるから、俺らはマンションに帰るんだよ」
「あぁ……(なるほど)」
私だけ、タクシーで帰ればいいんじゃない?
両親に挨拶する彼の横顔をじっと眺めながら、そんなことを考えていた。
「夕映さん、今度はうちにも」
「…はい」
「次会えるのはお正月かしら?」
「……そうなりますかね」
「ご馳走作って待ってるから」
「はい、ありがとうございます」
「夕映、采人君と幸せにな」
「夕映のこと、宜しくお願いします」
「はい」
言いたいことの十分の一も言えないのに、何だかこういうのも悪い気がしない。
三十路目前で、両親の幸せそうな顔を見ることができたのだから。



