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――翌日の終礼後。わたしは教室で帰り支度をしながら、里歩と話していた。彼女も学年末テスト前ということで、部活はお休み。もうすぐ貢が迎えに来るので、「あたしも久々に桐島さんに挨拶して帰るよ」ということになった。
「――絢乃、昨日は初めてのCM撮影おつかれ。無事に終わってよかったね」
「うん。小坂さんに迫られた時はどうしようかと思ったけど、桐島さんが撃退してくれたからよかった」
「『撃退』って、小坂リョウジは害虫かい。あの人気イケメン俳優がヒドい言われようだわ」
「うん、ゴキブリ並み」
小坂リョウジさんのファンだという里歩があきれたように笑うと、わたしは辛辣に返した。
言っておくけれど、わたしの恋路をジャマする人は人気俳優だろうと将来有望な政治家だろうと容赦はしない。それがわたしのポリシーだ。
「そこまで言うかね。でも、そうだよねぇ。小坂リョウジがファーストキスの相手っていうのはちょっといただけないか。だってアンタ、桐島さんの方がいいもんねぇ」
「…………うん、それはそのとおりなんだけど。そんなに茶化さないでよ。わたし今、本気で悩んでるんだから。彼との距離がなかなか縮まらないこと」
貢がわたしの初恋の相手だということは、里歩もよく知っていた。
茗桜女子はお嬢さま学校ではあるものの、こと男女交際についてはオープンだ。他校との交流もあり、里歩みたいに彼氏がいるという子も珍しくなかった中で、わたしは男性に対して奥手だったせいもあるのか恋自体したことがなかったのだ。だからこそ、好きな人との距離の縮め方が分からなくて悩んでいた。
「ふーん……。っていうか、アンタたちまだ付き合ってなかったの? もう知り合って四ヶ月っしょ? もうとっくにくっついてると思ってた」
「だって、今はそれどころじゃないもん。仕事いっぱい抱えてるし、経営の勉強も学校の勉強もあるんだよ? とてもそんな心の余裕なんか」
「まぁ、アンタはそうだろうね。人を好きになったのも初めてだし、どう行動していいか分かんないっていうのはあたしも理解できるよ。じゃあ、桐島さんの方は? 彼は一応恋愛経験ありそうだし、そこんところどうなわけ?」
「えっ? ……う~ん、どうって言われても……。真面目な人だし、上司と部下っていう関係上、いつも一歩引いてる感じだからなぁ。彼がホントにわたしのこと好きなのかどうかもまだよく分んないし」
彼もわたしのことが好きらしい、というのは里歩が以前くれた情報のみで、本人に直接確かめたわけではないし、わたしには確かめる勇気もなかった。でも、前日のうろたえぶりからすると、里歩の推測はあながち外れてもいないような気がしていた。



