夫婦ノートに花束を

「晴菜、ごめんな」 

 先に口を開いたの陽太だった。陽太の優しいいつもと同じ穏やかな声を聞いて、何だかひどくほっとする。

「え?どした?」  
 
 泣き出した私に陽太がオロオロとする。

「えっと、ごめんな。帰ったらちゃんと、掃除やるからさ」 

「……違っ……陽太ごめんね。私、『夫婦ノート』見たの……。陽太は私の事、いつも大事に思ってくれてたのに可愛くない態度ばっかりで、陽太のこと全然わかってなくて……ごめんなさい」

 陽太が私を花束ごとそっと抱き寄せた。薔薇の甘い香りが傘の中にふわりと香る。

「俺こそ、いっつも言葉足らずでごめんな。うまく晴菜に言えなくてさ。今日も結局イタリアン誘えなかったし……これ結婚記念日のプレゼントなんだけど貰ってくれる?」

 恥ずかしそうに差し出された薔薇の花束は、プロポーズの時と同じ9本だった。薔薇は本数で花言葉の意味が変わる。

 9本の薔薇の花言葉は『いつも一緒にいて欲しい』だ。

「陽太、ありがとう……」

「どういたしまして」

陽太は私の目から涙をそっと指先で拭うと、にこりと笑った。

「今日で晴菜と結婚して10年だな。いつも掃除や洗濯、美味しいご飯ありがとう」

 こんな風にストレートに陽太が言葉にするのは初めてかもしれない。驚いて言葉が出ない私を眺めながら陽太が言葉を続けた。