「もう、やだ……――」


誰も本当の私を知らない。
私の事なんて、分かってくれない。

手を伸ばしたところで、あの主婦たちのように逃げられるだけ。

住民からも、使用人からも、家族からも。

誰からも必要とされない私は、どこに居場所があるんだろう。


ぐらり、と。


疲れと絶望で体の力が抜け視界が揺れる。

このまま水たまりに落ちてしまうんだ――と。

薄れゆく景色の中で覚悟した。

その時だった――


ギュッ


私の体を支える誰かの手。

冷たい雨とは反対に、温かな体温が背中からじんわり伝わってくる。

まるで凍え切った心が溶かされていくようで……たまらず、その手を掴んだ。

すると、


「――未夢」

「ッ!」


呼ばれたのは、確かに私の名前。

こんな風に優しく呼んでくれるのは、この街で麻琴ちゃんだけだと思ってた。

だけど、