『無意味なことをやめろって言ってるんだ! 見てるこっちが苛つくんだよ!』

『あんたなんかに何がわかんのよ! お母さんのこと、なんにも知らないくせに!』

 なんにも知らないなんてことはない。
 自分だってチョコと過ごしてきた日々がある。
 知っていることだってたくさんあるんだ。
 それをショコラが知らないのは無理もないけれど、クリムは彼女の言葉を許せないと思ってしまった。
 今までのチョコとの修行の日々を、否定された気持ちになってしまったから。

 その日から、クリムとショコラは完全に絶縁した。
 クリムは後になって、ショコラに心ない言葉を掛けてしまったことを申し訳なく思った。
 けれどチョコとの関係を否定するような言葉が許せないのも事実で、再び『謝りたいけど謝れない状況』に陥ってしまう。
 きっとチョコが見ていたら悲しむと思ったので、ショコラとは早く仲直りがしたかった。
 そのためのきっかけを作ろうと思ったクリムは、あることを思いつく。

 ショコラが最も望んでいることは、大好きな母親のチョコが帰って来ること。
 しかしチョコを生き返らせることはできない。
 いくら錬成術を極めたところで、死者蘇生の道具を作ることは絶対にできないから。
 でも……

『……チョコさんがいたってことは、みんなに伝えることができる』

 自分が錬成師として名前をあげたら、師匠であるチョコの名前も同時に広まることになる。
 それでチョコ・ノワールという素晴らしい錬成師がいたということを、世間に伝えることができるのだ。
 生き返らせることはできないけれど、チョコという存在を皆の心に刻み込むことはできる。
 それが自分ができる、チョコへの精一杯の恩返し。
 同時に、ショコラへの罪滅ぼしにもなる。 

『僕は必ず、世界一の錬成師になる』

 それからクリムは、知見を深めるために行商人の父に同行することにした。
 様々な知識を持っていたチョコを見習って、各地を見て回りながら錬成師として腕を磨いていった。
 いつの日か、尊敬する師匠の名前を、皆に知ってもらえるように。

 これが錬成師クリムの、始まりの物語である。