「ククッ」

「何が可笑しいんですか!」



 肩を震わせて笑っているのが、すっごくイライラする。

 もう一発お見舞いしてやろうかと思った。



「アッハハ!ヤッバ、マジで面白い」

「こっちは全然面白くありませんけどね」



 いきなり米俵のように担がれるは、お姫様抱っこをされるはで、散々な目に遭っているんだから。

 むしろ、次は一体何をされてしまうのか気が気でならない。

 ところが、当の本人は頭を掻いているだけだった。



「気が変わった。今日はひとまず帰ることにする」

「本当ですか!?」

「そんなニヤつくのか?」



 あれ、つい顔に出ていたみたい。

 これで平和に過ごせると思ったらつい……。

 けど、さっき『今日は』って強調していなかった?

 てことは、また来るってこと?



「いいか、覚えておくんだな。お前は必ず、この俺。京極狼が堕とす」



 妖艶に笑う彼が、今はすごく恐ろしく感じてしまった。

 反対の意を唱えようと口を開いたけれど、彼はクルリと身を翻して、颯爽と車に乗り込んで帰って行ってしまった。



「京極、狼……」



 この時の私は知らなかった。

 これからどれだけの苦難が待っていたのかを。