覗き込んだケージの中には、パールホワイトのジャンガリアンハムスターがいた。

 痛みがあるのかチチッ、チチッ、と泣きながら、ケージの中で身体をくの字に丸めている。

 チヒロが言うように、そのハムスターの下腹部にはピンク色の内臓のようなものが見えた。

「ヤバいんちゃうか。飼育員、おらんのか……!?」

 チヒロが周囲を見渡すが、人影はない。

 ハムスターは苦しいのか丸めていた身体を起こして四肢に力を入れている。

 そしてハムスターははみ出た内臓をなめるような仕草をしたかと思ったら――ポロリと内臓が床材の上に落ちた。

 チヒロが息を呑む音がした。

 幽霊なのに息してるのかとか疑問が一瞬過ったけど、私はホッとしていた。

「チヒロ、これ内臓じゃないよ」

「へ?」

 ハムスターから転がり落ちた内臓はゼリービーンズみたいにつるりとしたピンクで、四つの突起があった。

 内臓もどきはその四つの突起をうごめかせて――伸びをした。

「コレ、ハムスターの赤ちゃんだよ」

 点々と血の跡はあったけど、内臓飛び出したんならこんな程度で済むはずがない。

 ゼリービーンズの四つの突起は手足で、よく見るとしっぽの小さい突起もある。

 顔の部分にはお口とまだ開かない目が瞼越しに黒く透けていた。

「こんなんが!?」

 まだ毛のないツルっとした赤ちゃんの姿に、チヒロは驚きが隠せない様子だった。

「そう、ハムスターの赤ちゃんってこんなんなんだよ」

 その驚きようがおかしくって、思わず笑ってしまいそうだった。

 小さなハムスターのお母さんは、最初に生まれた赤ちゃんの兄弟たちを生んでいた。

「そっか、頑張りや!」

「がんばれー!」

 生まれた子どもを体の下に隠すような仕草をしながら踏ん張るお母さんハムスターを、チヒロと二人で応援する。

 小さな赤ちゃんが二匹三匹と増えていく。

 生まれるたびに私とチヒロは手を取り合って喜んで、まだまだ生まれそうだと踏ん張るお母さんハムスターを応援する。

 他のハムスターが元気に活動する音を背景に、お母さんハムスターは一人頑張っていた。