「フーカも病死やな。鬱とかノイローゼとか、なんかなっとったんちゃうか?」

 涙が止まらない。幽霊なのに、涙が出るって変な感じ。ぬぐってもぬぐっても涙が止まらなくて、チヒロが優しく頭をなでてくれる。

 相変わらずチヒロの手ははっきりとした体温は感じないのに、凄く温かい。錯覚だとわかっていても、嬉しかった。

 私の涙は、拭った手も私の服にもはっきりと涙の痕跡を残すのに、地面に落ちた涙は一瞬で蒸発したみたいに痕跡を残さない。

 私たちはもう、この世界から隔絶されている。誰も私たちを見ないし、私たちも何も出来ない。全部すり抜けて、痕跡さえ残さずに、このままお迎えが来て消えてしまうんだろう。

「そう、なのかな……」

 自殺じゃなくて、病死。チヒロとお揃い。

 不謹慎だけど、ちょっと嬉しかった。

「そうやって。学校とかも大変やろ。同じ年に生まれて住んでる場所とか頭の出来が似たり寄ったりってだけの人間が何十人って集められるんやろ。俺やったらやってける気ぃせぇへん」

 チヒロの声が、優しく沁みる。

「たった六人しかおらん大部屋の人間模様もなかなか過酷やで。その何倍おるんや。怖いわ」

 流れ出た涙の分だけ、チヒロの優しさが染み込んでくるようだった。

「そういうんもあって、通信にしたとこあるわ。入院多いし、学校しんどかったわ。関西弁真似しとんのも、キャラ作りの一環や。誰も見舞いに来んとか、やっと退院できたと思ったら誰オマエ状態、結構キツい」

 私とチヒロ。全然立場が違うのに、チヒロは私の話に共感してくれる。

「チヒロも、頑張ってたんだねぇ」

 意識するでもなくこぼれ出た言葉に、チヒロがはっと息を呑む。

「ありがとう」

 そう言ったチヒロの表情は、痛みを堪えている様な、今にも泣きだしそうにも見えた。