「ちっさい頃から病気でなー。良くなったり悪くなったり繰り返し取って、薬とか手術とかやってもよおならんから、骨髄移植することなってずっとずっとドナーを待っとったんやけど、あかんかったわ」

 今、私の隣にいるチヒロは元気そうに見えた。

 顔色も普通だし、パジャマにスリッパっていう格好だけが病人らしさをかもしだしている。でもこれは、死んで病気だった体を抜け出したからなんだろう。そういうえば私も、寝不足で頭痛が酷かったのに死んだら治ったや。

「もっと早く移植に決まってれば、ドナー見つかっとったんかなとか考えんのよ。輸血とかするとドナー登録取り消しなるらしいし、俺に合っとったやつがおったのに、そうやっておらんなったのかもしれん」

 ドラマとかでしか見聞きしたことのない世界の話だった。学校の授業で聞いたこともあったけど、ドナー登録している人は知らないし、ドナーを待っている人も私は知らない。

「中学のころになーあ。俺、今十八やねんけど、フーカも同じぐらいか?」

「う、うん……」

 献花台の方を見ていたチヒロの顔が私の方を向いて、ドキドキしてしまう。どんな顔をして、チヒロの話を聞いたらいいのかわからなかった。

「その制服なんや見たことあるわ。俺は制服ないんやけどな。入院ばっかやから、通信にしたんや。それも勉強どころじゃないこと多くてダブっとんねんけどな」

 学校とは逆方向の電車に乗ったけど、そう遠くない駅で降りたから、この辺りから私と同じ学校にいる子もいるのかもしれない。

 チヒロが言う通信ってのは、通信制高校ってやつなんだと思う。名前は聞いたことあるけど、通っているっていう人には初めて会った。高校生も単位や出席日数が足らなかったら留年するって知ってはいたけど、実際に留年してしまった人に会うのもチヒロが初めてだった。

 私と同じ十八歳なのに、こんなにも私とチヒロは違う。

 きっと、今日が二月二十九日じゃなかったら私とチヒロの人生が交わることなんてなかったかもしれない。もう死んでるのに、人生って言うのもおかしいかもしれないけど。

「で、中学のころに同じ病気のヤツが入院してきたんや。で、死んだ」

 また献花台の方に視線を戻したチヒロの言葉をうんうん頷きながら聞いていたら、重たい言葉が出た。

 私もチヒロももう死んでいるっていうのに、生きてたころと同じ重さを持って死は響く。