それだけでは済まず、今度は雅子の頬を往復ビンタし、顎を掴んだ。
「お前…俺があのいらねぇガキのことが不愉快だってこと知っててわざと言ってんのか!?しかも、俺の前で他の男のことを素敵だと?あいつは、あのガキの元家庭教師で、お前より年下だぞ!この色ボケ女が!」
「ごめん…なさい!許して…!」
 半泣きで雅子が謝ると、やっと一樹は手を離した。
「なぁ、雅子。俺はこんなことしたくないんだよ。お前が俺を怒らせたりしなければ…。俺だって、自分の女を痛めつけたいわけがないだろう?」
 今度は、とってつけたようなことを、優しげな口調でそう言う一樹。
 雅子の性格は、よく言えば優しく、悪く言えばかなり気が弱い。
 いつも一樹の暴力に怯え、そのあとの口先だけのフォローに負け、別れを切り出すことも出来ずにいた。
 しかし、実は過去に一度、一樹から酷い暴行を受けた際に、警察に相談したことがある。
 それなのに、警察は、まともに取り合ってはくれなかった。