挨拶を終える頃には、土方さんや近藤さんはいなくなっていた。
総司「おーい! こっちです〜!」
私を呼ぶ声が聞こえてきた。
総司「さあ、雪のっ…雪景さん! ちょっとこっちに来てくださぁい」
…今、絶対に雪乃って言いそうになったよね。
少し睨みを利かすと、あはは…と乾いた笑みを浮かべた。
『なんですか?』
総司「雪景さんがきっと欲しいものです〜! ほら、早くー!」
手をグイグイと引かれて、強引に連れて行かれる。
連れて行かれた先は、沖田さんの部屋。
『な、なんですか…?』
総司「じゃじゃーん! これ、雪景さんにあげます!」
文机に置かれているものを、私に見せてきた。
『これ…筆と、硯…?』
総司「私のお下がりで悪いんですけど、先程欲しそうにしてたなって思って…やっぱり、嫌でしたかね?」
不安げな表情の沖田さん。
『いえ、! 嬉しいんですけど…いいんですか?』
こんな大切なもの…。 今の時代の金銭感覚はよく分からないけれど、筆も硯も、決して安い物ではないはず。
総司「全然っ! 捨てちゃおうかなーなんて思ってたところだったので、むしろ貰って欲しいくらいだったんですよ!」
ニコッと屈託なく笑う沖田さん。
硯は、多少使った後があるものの、筆はほぼ新品と言っても遜色はない。 捨てようと思っていたなんて、きっと嘘で 私が遠慮しないように言ったんだろう。
その気遣いが嬉しくて、笑みが溢れた。
『ありがとうございます、沖田さん。 大切にします』
総司「…それ!」
『…え?』
びしっ、と険しい顔で指を差されて吃驚する。
総司「沖田さんって、他人行儀じゃないですか。 私のことは、総司と呼んでくださいよ」
『そ、総司さん…?』
総司「そ・う・じ!」
腰に手を当てて、怒っているようだ。
『…そ、総司…』
総司「はい! 遠慮はいらないですからね。 男同士だと、同年代で程度仲良くなったら、呼び捨てが普通ですよ」
な、なるほど…。 確かに、クラスの男子たちもそんな感じだったかも。
『…というか、…そ、総司って、何歳なの?』
総司「あー、二十二歳です」
四歳差か…。 ということは、天保13年(1842年)6月8日生まれが正しいのか。
誕生日は不明らしいけれど、夏生まれで大雨が降った日に生まれたと記録に残っていて、当てはまる日が6月8日なんだとか。
『では、これから総司と呼ばせてもらいます』
総司「じゃあ私は雪景と呼びますね!」
少し、距離が縮まった気がした。

