総司「……さて、良い刀はありますかね〜」
きょろきょろと、辺りを見回している。
店主「聞き捨てならないぜ、沖田様。 俺ぁ、良い刀はしか売ってねぇさ」
まさか、なまくらを売るようなことはしないだろう…。
総司「嘘つかないでください。 私が初めてこの店に来たとき、なまくらを押し付けてきたの忘れてませんから」
店主「……けっ…まだ覚えてたんですかい」
………マジで、なまくら押し売りしとったんかい…。 呆れて、口が塞がらない。
店主「フンッ、騙される奴らが悪ぃのさ。 …そうだ、そこの色男。 こん中から、刀を目利きしてみろよ。 もし名刀だったら、タダでくれてやるさ」
ビシッ、と指でさされる。 ……色男って…私のこと…?
『い、色男って…』
嬉しいやら、悲しいやら…。
店主「謙遜することはねぇさ。 …さっ、選んでみな」
ドサッと、前に置かれたのは刀が何十本も入っている籠。 ……一応商品なのに、大丈夫なのかな…?
店主「この籠に、名刀は一つのみだぜ」
当てられるわけない…と、自信満々に、笑みを零している。 …そんな目で見られたら、絶対当てたい…。
じーっと、顎に手をあてながら、刀を見ていく。
『刀身、見てもいいですか?』
店主「勿論だ」
断りを入れて、手前にあった刀を手に取り、カチャリと鯉口を切る。 抜き出して、刃先まで見てみた。
『……なまくら ですね』
はぁ…とため息をついて、カチャリと鞘に収めて、籠に戻すと次の刀も見る。 ……これも、なまくらだ。
確認をしていって、6つ目の刀先を見た瞬間。
『…これにします』
茶色の鞘、本鮫皮に小豆茶色の糸が使われた柄と下げ緒。 刃に波打つ模様が美しい。
二尺八寸程あって、長い割には握りやすく持ちやすかった。
店主「…目利き、できんのか。 …ソイツは、千子村正っつうやつさ」
はっ…と息を呑んでいる。
総司「……村正、?」
沖田さんは、何故か頭を傾けている。
店主「…妖刀村正って呼ばれてもいるな。 刀身は反りが少なく、肉つきは薄い。 鎬が高いのが特徴だ。」
妖刀村正…聞いたことある。 徳川殺し…なんて呼ばれていた刀だって。
大量に作られて、価値自体は低いけれど、その斬れ味は本物だ。
『あの…これって、徳川殺しとか呼ばれてるのに、大丈夫なんですか…?』
新撰組…壬生浪士組は、いわゆる佐幕派(幕府を補佐する)だから、やばいんじゃないかなぁ…。
店主「んなこたぁ 何百年も前の話だし、そもそも妖刀なんてモンはねぇよ。 きっと大丈夫さ。 それに、黙ってりゃ気付かねぇよ」
……まあ、店主さんもそう言ってるし…いっか。
総司「…それにしても、目利きも出来るんですか…! 凄いですねぇ」
『刀は素直なのです。 文字が書き手によって、はね方や はらい方が違って、書いたときの感情や性格が垣間見えるように…』
すっ…と、刃が仕舞われた鞘を撫でる。
『…刀も癖があり、何一つとして同じものはない。 刃を見れば分かります。 どんな人なのか、どんな気持ちで打ったのか』
総司「…なるほど…」
…そういえば、当てたらタダでくれるって言ってたっけ。 チラリと、店主に目を向けると 気まずそうに口を尖らした。
店主「フンッ、この脇差しと二つで一つだ。 持って行きな」
パシッと投げ渡された脇差し。 中脇差と呼ばれ、一尺三寸ほどの長さ。
似たような鞘と柄を持っている。
『…これも村正ですか』
店主「…そうだ。 くれてやるから、とっとと行け!」
嫌そうな顔を隠すこともなく、手で追い払われる。
『ふふっ、ありがとうございました…!』
店主「当分は御免だね」
店主は、けっ…という表情をしている。 私は大幅な節約に、機嫌の良さを隠さない。
私と沖田さんは、笑いながら鍛冶屋を出た。
総司「大丈夫ですよ、雪乃さん。 私も雪乃さんと同じように加州清光を引き当てて、安く譲ってもらったんです。 その時もあんな態度でしたから」
『そ、そうなんですか…』
あはは…と苦笑いする。 …そのうち潰れてしまうのではないか。

