冤罪から死に戻った悪女は魔法伯の花嫁に望まれる

 けれど、ヨハニスにとっては死刑宣告にも等しい音だったようで、過剰反応というぐらい肩がぶるぶると震えていた。先ほど衛兵に抵抗したせいか、整っていた金茶の髪はぼさぼさだ。服も多少乱れている。

(……散々悪女呼ばわりされていたのだから、最後くらいはその期待に応えてもいいかもしれないわね)

 膝立ちになった元婚約者を冷たく見下ろす。
 小首を傾げて右手を口元にやり、悪女らしく笑みを深めた。目が笑っていないことが伝わったのだろう。彼の顔にはわかりやすく怯えが見て取れた。
 最後の仕上げだ。
 ルーリエは、もう何の未練もないのだと告げるべく、淡々と別れの言葉を述べる。

「ヨハニス殿下。短い付き合いでしたが、どうぞお元気で。魔界での生活を存分にお楽しみくださいませ」
「……ッ……」

 否定しようとしたのだろう。