冤罪から死に戻った悪女は魔法伯の花嫁に望まれる

「……あ……ああ……そんなバカな。俺は取り返しのつかない過ちを犯してしまったというのか……悪魔に心を委ねるなど、極刑ものの大罪ではないか」

 先ほどの苛烈さはすでにない。
 憑き物が落ちたように、ヨハニスの声は平坦だった。それを隣で見ていたヘレンが、ルーリエに向かって吠える。

「ちょっと、どうして魅了の魔法の効力が切れているわけ? アタシはこの国の王妃になる女よ! なんでこんな女に計画を邪魔されなきゃいけないの!?」

 ギャンギャン叫ぶ様子は品性のかけらも感じられない。
 おそらく王子にかけられた魔法が解けたのは、手枷のおかげだろう。魔力でできた手枷は鈍い光を放っていて、ルーリエにはその原理はわからない。
 ただ、ひとつハッキリしたことがある。

(……ああ。間違いなく、これがわたくしを死に追いやった元凶だわ)