冤罪から死に戻った悪女は魔法伯の花嫁に望まれる

 バサリとレースの黒扇を広げ、ルーリエは嘆息する。

「本当に呆れた方……真実を見せて差し上げます。クライン魔法伯爵閣下、あとをお願いいたしますわ」
「仰せのままに」

 名指しされたイグナーツが進み出て、懐から取り出した細長い棒をヘレンに向けた。
 彼がしたのは、緑の魔法石が埋め込まれた杖を一振りしただけ。
 だがそれを合図にヘレンの姿がゆがみ、徐々にその姿が変わっていく。頭からは木の幹のような角が二本生え、刺々しい尻尾が現れる。貴族令嬢に擬態していたときの愛らしさは掻き消え、性悪そうな顔の女がこちらを睨んでいた。

「う、うわぁ……!?」
「ひぃ……あ、悪魔っ……!」
「……なんて悪夢だ。よもや化け物が現れるとは」

 暴かれた正体を前にして、貴族たちの悲鳴が伝播していく。